コラム

世界に誇る地下鉄の一元化に大賛成!

2014年03月13日(木)12時16分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー
〔3月4日号掲載〕

 東京の地下鉄には、どんな都市も嫉妬するだろう。ほとんどの駅は私の家のキッチンよりきれいだし、車内の床はピクニックができるほど清潔。運行ダイヤはスイス製の時計並みに正確だが、ちゃんと人間味もある。

 電車が駅を出る際は、乗客が車内に納まったことを駅員が確認して車掌に伝える。改札には必ず礼儀正しく親切な駅員がいる。乗客の安全は最終的に、機械ではなく人の手に委ねられている。

 機械まで礼儀正しい。切符を買うたび、発券機のタッチパネルに現れるキャラクターが「ありがとうございます」と頭を下げる。電子メールすら人に代わって機械が自動発信する現代社会で、人間味あふれる地下鉄は新鮮だ。

 九段下駅など、小さな「図書館」が設置された場所もある。乗客が読み終わった本を構内の本棚に置いていき、別の乗客が借りていく。知の共有が大切にされてきた日本ならではの伝統だろう。

 パリから来た私は、感動すら覚える。多くの乗客が運賃をごまかし、少し目を離しただけで物が(借りられるのではなく)盗まれるのがパリの地下鉄。東京の地下鉄はどんな外国人旅行客にも自慢できる財産だ。AFP通信は昨年、東京の地下鉄を数回にわたって特集し、フランスの読者に大好評を博した。

 大人になったら電車の運転士になりたいと言う日本の子供が多いのも、地下鉄を含め日本の電車が優秀だからだろう。フランスでは、電車の運転士を夢見る子供など聞いたことがない。地下鉄の夢を見ることがあるとすれば、それは悪夢だ。

■どうしても見劣りする都営

 とはいえ、東京の地下鉄も2つの系統がある。民営の東京メトロと都営地下鉄だ。そして、両方を乗り比べて都営のほうが優れていると言う人は数少ない。

 都営地下鉄は東京メトロの落ちこぼれバージョンと言って、差し支えないだろう。東京メトロより運賃は高く、運行本数は少なく、車両が狭いせいで窮屈な思いをさせられる。デザインは古くさく、塗装も東京メトロに比べて色あせている。

 2000年に鳴り物入りで全線開通した都営大江戸線は、駅ごとに異なるデザインが自慢だった。だがそのデザインも、開通から程なくして時代遅れになった。飯田橋駅は、今では映画『2001年宇宙の旅』に出てくる宇宙ステーションのようにレトロな様相を呈している。

 大江戸線は、乗り換えの通路がやけに長いのも難点。これでは公共のための交通機関というより、建設会社を儲けさせるために造ったのではないかと疑ってしまう。それでいて、都営地下鉄は天文学的な額の負債を負っているというのだから、開いた口がふさがらない。

 それに引き換え、東京メトロで最も新しい副都心線は効率性とグッドデザインのかがみだ。ロゴの色は女性誌のロゴのようにあか抜けたブラウンで、車両はリビングルームのように居心地がいい。

 私の最寄り駅は大江戸線と副都心線が交わる東新宿駅だから、どちらの地下鉄も使うことができる。だがここでも、どうしても副都心線より大江戸線のホームは見劣りしてしまう。

 猪瀬直樹・前東京都知事は東京に2つの地下鉄があるのは無意味だと主張し、一元化しようとしていた。この計画が進まない理由の1つは、統合すると東京メトロの株価が大幅に下がるからだろう。

 けれども地下鉄は元来、株主のためと言う以前に乗客のために存在すべきものだ。基本的に同じ人々に同じサービスを提供している2つの経営母体の一元化は、多くの相乗効果をもたらす。

 東京都は一元化計画から手を引くべきではない。新たに知事に就任した舛添要一氏の考えは分からないが、彼が「東京を世界一の街にする」と公言しているなら、「世界一の地下鉄」もその大切な要素になるのではないだろうか。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ホワイトハウス宴会場建設開始、トランプ氏「かつてな

ビジネス

インドネシア中銀、インフレ率維持なら追加利下げ必要

ワールド

原油先物が下落、供給過剰懸念

ビジネス

QT打ち切り、早ければ来週FOMCで発表か 金融調
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story