コラム

日本の部活に異議あり! スポーツ「偏愛」の弊害

2013年02月25日(月)10時00分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

[2月19日号掲載]

 スポーツ体罰問題が世間を騒がせている。問題が表面化したことはいいが、「体罰は悪い」の一点張りで、いつもながら根本的な問題には触れられていない。

 問題の背景には、日本独特の過剰な部活文化と、スポーツ選手が英雄視され商品化される「スポーテインメント」の存在、それらを支える日本人の「スポーツ依存症」(「スポーツ偏愛症」)がある。

 僕は日本の部活文化が羨ましかった。目標に向かって仲間が1つになる、汗と涙にまみれた歓喜の青春物語に憧れていた。韓国の青春に部活という2文字はない。進学希望者はひたすら勉強だけで、運動部に所属するのは「選手」を目指す学生だけだ。

 だけど日本の部活文化にも問題はあった。僕は新宿の中学校のサッカー部員だったが、部員の大半が不良という別世界だった。サッカーが好きで入部したのに、練習はひたすらランニングとうさぎ跳びと玉拾い。先輩の機嫌次第ではパンツ1丁でのしごきが待っていた。先輩が試合に負ければ、後輩も「五分刈り」の連帯責任は当然だった。

 戦後日本で部活が活性化したのは敗戦と関係がありそうだ。戦前までの日本人は長年、戦争と身近な生活を送ってきた。そこで醸成されたエネルギーと軍事文化が戦後に行き場を失い、スポーツへはけ口を求めて部活文化へ入り込んだのではないだろうか。

 科学に基づいた練習よりも、上下関係と大声と精神論が強調される背景だ。実際、日本での部活体験は韓国で兵役に就いた際にとても役に立った。上官の命令に絶対服従し、理不尽に耐えることを体が覚えていたからだ。

■体育会に寛容過ぎる日本社会

 もちろんこんな部活文化は昔の話で、今はもっとリベラルで合理的な指導が行われているだろう。しかし近年も、スポーツに熱心過ぎることの弊害は存在する。過剰な部活熱は子供の将来だけでなく、子供に付き合う親の貴重な週末をも奪っている。

 今の子供たちの将来の夢は、サッカー選手などアスリートが筆頭だ。そのせいか、皆が選手になれるはずがないのに、部活はあまりに本格的過ぎる。小学生からサッカーや野球のチームに入り、有資格のコーチから本格的な指導を受ける。週末は土日とも試合がセットされ、子供たちは結果が求められる緊張感の中でプレーをする。親も週末返上で試合に奉仕する。僕の友人は娘がサッカーにはまり、試合引率と審判などで週末は丸つぶれという。
 
 しかし一番許せないのは、大学の体育会の甘えの構図だ。いまだ部活と就活のために大学に来たと思える学生が結構いる。練習を理由に堂々と授業を休み、試合があるので報告の準備もできないという。試合でけがをして長期に大学を休んでも平気な顔だ。それでもOBのコネや、体育会出身の適性が買われて就職は問題ない。これで本当にいいのだろうか? 日本社会は学業とスポーツが本末転倒になっている部活文化に対して、あまりに「寛容」過ぎる。

 そして部活文化と同様におかしいのは、日本人のスポーツ偏愛症だ。その最たるものがあの世にも無駄なプロ野球の「キャンプリポート」だろう。

 選手が自主トレで「キャッチボールを始めた」「ブルペンに入った」「フリー打撃で打った」──。そんなの「あたりまえ体操」だろ! それならアイスホッケーのアジアリーグなど、面白い試みをしている競技をきちんと報じてはどうか。

 日本人はスポーツ選手や報道が好きなのに、実際にはスポーツを楽しめていない。部活は本格的過ぎるしスポーツは金がかかり過ぎる。気軽に楽しめるレジャーとしてのスポーツ振興こそ、日本を元気にするというアベノミクスのもう1つの矢に加えてほしい。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story