コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
東京よ、日本文化を国際舞台に上げろ
今週のコラムニスト:レジス・アルノー
韓国が国際的な文化大国になるなんて、5年前は誰が考えただろう。韓国の現代映画は世界中で注目の的、釜山国際映画祭はアジアの主要な映画祭だ。ソウル国際公演芸術祭はアジアの主要な舞台芸術フェスティバルで、国外にも作品を輸出し始めている。K─POPはアジアを席巻、今や日本のティーンエージャーもJ─POPよりK─POPに夢中だ。
それに引き換え、日本は文化の輸出が足踏み状態。政府は日本の「ソフトパワー」を確立したいと言うが、政府援助はかえって迷惑だ。
20世紀、日本映画は世界有数の影響力を誇った。溝口健二はフランスの巨匠ジャンリュック・ゴダールにひらめきを与え、黒澤明はジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』の誕生に不可欠だった。
今では、日本映画は海外ではほとんど上映されない。質が低過ぎるせいだ。国際的に評価が高いのは、『おくりびと』や『キャタピラー』など、公的な資金援助を受けず、資金不足を才能でカバーしている作品ばかりだ。
東京「国際」映画祭は、私の知る限り、映画スターが公然と笑いものになる唯一の映画祭だ。スターは「グリーン」なトヨタ・プリウスから降りて、グリーンのカーペットを歩いていく。外国の映画スターならそんな扱いは拒否する。東京国際映画祭では外国映画のプレミア上映はほとんどなく、上映されても俳優はわざわざ来日しないのが普通だ。09年に審査委員長を務めたメキシコの映画監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは、出品作品のラインアップがお粗末で受賞作を決めるのに苦労したとこぼした。
■主役はあくまでもアーティスト
舞台芸術も状況は同じ。東京では09年から舞台芸術の祭典「F/T(フェスティバル/トーキョー)」が開かれているが、期間中ほとんど看板を見掛けない。主催者はとても真剣で聡明なのに国際的な認知度は低い。
なぜ東京より釜山やソウルなのか。カネの問題ではない。国際文化フェスティバルは「国際的な文化の祭典」だと分かっているかどうかの違いだ! 東京国際映画祭の主役はアーティストであって、経済産業省とスポンサーではない。外国人アーティストは日本人の添えものではなく、フェスティバルの中心にするべきだ。アーティストはトヨタを利用すべきだが、逆はいけない。
日本の主催者は国内を重視することが日本人アーティストにとってプラスになると考えている。しかし長い目で見れば、特に才能ある人々をつぶすことになる。外国人プロデューサーが東京を訪れ、日本人アーティストの仕事ぶりを見て試しに使い、彼らの才能を伸ばすチャンスを奪っているからだ。
東京には海外でヒットした作品が一歩遅れてやって来る。若くないサッカー選手が日本にやって来て有終の美を飾るのと似ている。しかし韓国では国際的な共同製作が生まれ、国外に進出する。国外重視の方針を貫き、世界各地で韓国人アーティストに活躍の場を与えている。
東京圏には教養も財力も備えた人々が3200万人暮らしている。暮らしやすさは世界有数だが、文化の面では過密と公害に悩むソウルより影が薄い。日本政府はアニメの輸出には野心を持っているようだが、日本のアニメは40年間、政府の助けなしで海外で健闘してきた。私がアニメの制作者なら、実績のない政府の援助なんてお断りだ。
大規模で本格的な文化フェスティバルは、楽しみ、学び、お金を使うことに熱心な、教養ある外国人旅行者を呼び込む効果もある。そうなれば東京のステータスがワンランク上がるだろう。観光立国を目指す日本にぴったりだ。
昨年1年間の訪日外国人観光客は約860万人と「記録的」な数に達したそうだが、それではドバイと同じ数だ。東京だけでも見どころはドバイの1000倍あるのでは?
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