コラム

中国人が呆れる「汚街」歌舞伎町

2010年07月15日(木)09時38分

今週のコラムニスト:李小牧


 もう怒った。いい加減にしてほしい!

 李小牧が腹を立てているのは、しつこくみかじめ料を要求するヤクザでも、バックチャージの金額をごまかそうとしている風俗店でもない。新宿・歌舞伎町だ。

 なぜ歌舞伎町案内人が歌舞伎町に腹を立てるのか? その答えを知りたければ、昼間の歌舞伎町に来てほしい。ネオンが輝く夜には闇にまぎれて見えない「奴ら」が、7月の太陽の下で堂々とストリートを行進している姿を見ることができるから――。

 かつてはヤクザの「行進」が名物だった歌舞伎町で、今彼らに代わって町を練り歩いているのはネズミとゴキブリ。栄養がいいためかゴキブリはどれも超巨大で、ネズミにいたっては体長30センチ級がゾロゾロいる。

 ネズミやゴキブリがわが物顔で「君臨」できるのは、歌舞伎町がゴミの町だから。セントラルロード、さくら通り、東通り、わが一番街、区役所通り......。歌舞伎町1丁目の各ストリートにある雑居ビルと雑居ビルの間に、朽ち果てた家具やベッド、半分腐ったような使用済みタオルが山のように積まれているのをご存知だろうか。

 店のゴミ出しはでたらめ。ゴミをエサにするカラスはまるまると太り、その数は前より増えている。ビルとビルの間を粗大ゴミ捨て場と思っているくらいだから、各飲食店の中もおそらく見えないところはゴミだらけなのだろう。野良猫がときどき店に入り込んで大騒ぎになることがある。

 歌舞伎町に観光に来た中国人は、目の前を走る巨大ネズミを見て「ギャッ!」と声を上げる。こんな恥ずかしいところを母国の人たちに見られて、私のほうが「ギャッ!」と叫びたいくらいだ。清潔な国だと期待して日本にやって来た中国人が、歌舞伎町のネズミやゴキブリに幻滅して帰国していることを、大半の日本人は知らない。

■中国人もビックリ!の巨大ネズミ

 歌舞伎町がゴミの町になり果てているのは、1つには雑居ビルの管理会社が気づいていながら掃除をまったくしないから。確かにビルの周りを掃除する責任はないかもしれないが、積み上がったゴミは明らかに町の景観を損ねている。

 石原慎太郎都知事の歌舞伎町浄化作戦も関係している。非合法な風俗店が減ったあと、歌舞伎町にはラーメン屋や飲み屋などの飲食店が増えた。飲食店が増えたことで生ゴミの量が増え、それをエサにするネズミやゴキブリ、野良猫が増えた。それに飲食店は生き残りの競争も激しく、だいたい数カ月で店が入れ替わる。ほとんどの「敗者」は残して行く粗大ゴミがどうなろうと気にしない。

 中国人が動物園以外でこんなに大きなネズミを見ることはない。中国人の大人は立ち小便をしないから、ビルの間のゴミに向かって「黄金のアーチ」を描く日本人男性にも驚く。この7月から中国人個人旅行者のビザ発給条件が緩和されたが、「汚いほうが町のイメージに合う」なんてのんきなことを言っていたら、そのうち中国人観光客はだれも歌舞伎町に来なくなってしまう。

 歌舞伎町の街頭でもボランティア団体がゴミ拾いをしているが、なぜかタバコの吸い殻を集めるばかりで放置された粗大ゴミには見向きもしない。不景気な歌舞伎町で今一番もうかっているのは清掃業者。みんな面倒くさがって店の掃除を自分でやらないからだ。みんなのやる気だけに期待していては、いつまで待っても問題は解決しない。

■歌舞伎町をシンガポール化せよ

 そこで石原知事にお願いがある。歌舞伎町浄化作戦の第2弾をスタートしてほしい。第2弾のターゲットは本物のゴミ(笑)。歌舞伎町を「ゴミ清掃特区」にして粗大ゴミの不法投棄や、抜き打ち検査で「不潔」と認定された飲食店に特別重い罰金を課すのだ。いわば「歌舞伎町シンガポール化作戦」である。

 毎日30万人が訪れる街なのに、公衆トイレが西部新宿駅近くとゴールデン街の入り口の2カ所にしかないのもおかしい。これではまるで立ちションしてくれ、と言っているようなもの。わが湖南菜館の五つ星級のトイレは客に大人気だが、このレベルなら有料でも使いたいという人がいるはずだ。

 私が来日した22年前に比べて、歌舞伎町はけっして美しくなっていない。植樹や道路の舗装のお陰で見た目はきれいになっているが、見えない部分はむしろどんどん汚くなっている。

「アジア一の繁華街」歌舞伎町が私の誇り。なのに、このままではゴキブリやネズミの大きさがアジア一、いや世界一になっちゃうよ!

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story