- HOME
- コラム
- @シリコンバレーJournal
- セレブはヌード写真を撮ってクラウドに保存するのか?
コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
セレブはヌード写真を撮ってクラウドに保存するのか?
アップルのクラウドサービスiCloudからセレブのヌード写真が流出した事件は、インターネット・ユーザーにとっては大きな学習機会である。他人事と傍観するのも一手だが、この騒ぎにどんな要素が含まれているのか、ちょっと考えてみよう。
まず、セレブらはこんな写真を撮って保存しているのだなあ、という単純な発見。「そんな脇の甘いことをしているから、こうなるのよ」という声もかなりあるらしいが、実際スマートフォンでヌード写真を送受信する人々はどんどん増えているそうだ。
インターネット時代に関連した調査で定評のあるピュー・リサーチセンターによると、スマートフォン・ユーザーのうち、自分のヌード写真を誰かに送ったことのある人は9%(2013年5月の数字)で、これは1年前に比べて3%の増加。また受け取ったことのある人は20%で、こちらは5%の増加という。3%は受け取ったヌード写真をさらに別の人に転送するという(その割合は変化なし)。
今やスマートフォンは、親密な関係を促進する道具となっていて、昔ならば電話で色っぽい声を出していところ、スマホによる写真送信に取って代わられたとも言える。
普通の人でもそうなのだから、セレブならなおさらだ。自分の身体を常にチェックしているだろうし、今回は若い頃の写真も混ざっていたというから、オーディションのためにテストしていたのかもしれない。
それに、クラウドサービスをよく理解していなかったケースも考えられる。設定によっては、撮った写真はiPhoneなどの機器側とクラウド上と同時にシンクロされる。手元の機器の中にあるだけと勘違いし、安心していたのではないか。
そして、クラウドサービスはハッキングされるという事実もわかった。今回はiCloud自体がごっそりと不法侵入されたのではなくて、複数のセレブのアカウントが狙い撃ちされたことになっている。ハッカーはパスワードが当たるまでトライし続けて侵入に成功した。つまり、普通ならば何度か失敗すれば入力できなくなる、パスワードのセキュリティー設定が働いていなかったのが原因だ。
だが、クラウドの安全性については、かなり安全でも100%の保障はないということを覚えておいた方がいい。セキュリティー関係者からよく耳にする言葉は「狙い撃ちされない限り......」。つまり、かなり高度な技術を持つハッカーらが集団で執拗に攻撃してきた場合、防御できない可能性はゼロではないということだ。もちろん、内部関係者による漏洩の可能性もあるだろう。
それでもクラウドサービスは便利だから使い続けたいという場合には、複雑なパスワードを設定し、さらにファイルを暗号化するなどの対策が必要だ。
また、この手の話題は火がついたように広まることも、再びよくわかった。流出した写真はツイッターやフェイスブックで瞬く間に増幅され、いったん広まってしまったものは元へ戻せない。メディアも、流出写真を掲載せずに報道したところと、部分的に黒塗りして掲載したところ、あからさまに写真を出して報道したところと、いろいろなスタンスが見られた。
さて、ハッカーらは罪に問われるのか。現在、FBIが調査中というが、有罪になることは明らかだ。不法侵入、窃盗に加えて、著作権侵害、プライバシー侵害、未成年ポルノ写真流布などの罪に問われることになる。
それでは、ツイッターなどでこうした写真を広めた人々はどうなるか。ツイッターやフェイスブックは、すでにそうしたユーザーのアカウントを一時停止したという。これはユーザー規約に基づく処置で、著作権侵害を根拠に行ったものと思われる。こうしたヌード写真は、撮影した本人(この場合はセレブ自身や撮影した人)に著作権があるからだ。たとえばツイッターの場合は、「著作権侵害となるコンテンツは予告なく削除し、(中略)ユーザーが繰り返して侵害する場合は、アカウントを取り消す」と規約に書かれている。
基本的に、こうしたサイトはユーザーが犯した罪をサイト側がかぶらないように線引きをしているので、もしユーザーが何度もヌード写真をアップしていたら、ユーザー自身が著作権侵害等の罪で問われる可能性も出てくる。
アップルの株価にも影響が出た。ヌード写真騒ぎで100ドル以下に価格が下がり、一時的には時価総額が260億ドルも落ち込んだ。iCloudのシステム自体が攻撃されたのではないとわかってから徐々に持ち直したものの、クラウドサービスに対する人々の不信感が表面化してしまったかたちだ。
そうして、ここへ来てささやかれているのが、セレブがアップルを訴えるのではないかという噂。こうした目立ったケースは話題にもなり、そして他のテクノロジー企業へのみせしめとなる。おそらく今、関係弁護士らが忙しく準備に動いているところだろう。
この筆者のコラム
稚拙でも商魂たくましいアメリカのロボット産業 2015.07.28
アメリカでウォッチすべき先端メディアサイト・リスト 2015.06.25
感情計測テクノロジーが開く新ビジネスの可能性 2015.05.25
在宅遺伝子テストでわかること 2015.04.22
米政府で次々と要職に就くテック企業重役 2015.04.17
ヒラリーに学ぶ私用メールと社用メールの使い分け 2015.03.28
帰ってきたバーチャル・リアリティーの新境地 2015.03.12