コラム

進化するバーチャル・アシスタントとの付き合い方

2014年05月27日(火)15時23分

 最近のテクノロジー企業の競争分野は、AI(人工知能)だ。

 マイクロソフトはもとより、グーグルもヤフーもフェイスブックもAI研究の第一人者を迎い入れ、AIをこれからの戦略的な技術として位置づけている。一見AIに無関係にも見えるピンタレスト、そしてアメリカ企業ではない中国の検索エンジン、バイドゥー(百度)も同じようにAIに力を入れていることがわかっている。

 各社によってAIの応用方法は異なるだろう。検索エンジンの機能を向上させることかもしれないし、ユーザーが投稿する写真の照合を素早くすることかもしれない。あるいは、アマゾンのように注文する前からユーザーが欲しているものを予測するといった目的で使われるようになるかもしれない。

 AIの統合は、インターネット技術の新たな時代をつくると言っても過言ではない大きな動きだ。われわれ一般ユーザーにとって、そのAIに触れるもっともわかりやすい場面は「バーチャル・アシスタント」とのやりとりである。

 バーチャル・アシスタントとは、ユーザーの日々の行動に役立つようにいろいろな情報を先回りして表示してくれるような機能である。それを音声でやってくれる。

 すでにアップルのSiriやグーグルのグーグル・ナウ、そして先だって発表されたマイクロソフトのコルタナなどが、これからバーチャル・アシスタントとしてますます機能を充実させていくはずである。たとえばSiriは、現時点では音声認識でユーザーが口に出した要望を理解して、主に検索を行い、その結果を音声で返すといったことを行っているレベルだが、グーグル・ナウはミーティングのアポをリマインドしてくれたり、ミーティングの場所までの地図を表示して、かかる時間を教えてくれたりする。

 これがコルタナになると、ちょっと小股の切れ上がった若い女性という性格付けまでされていて、質問によっては丁々発止の会話を楽しめるようにプログラムされている。役に立つだけでなく、コンパニオン的な存在を目指しているというわけだ。だが、こうした各社のバーチャル・アシスタントの差は問題ではない。なぜなら、これから競争が激化して、どのアシスタント機能もほぼ同じようなレベルに達するだろうからだ。

 コンピュータやインターネットはこれまでも人間の能力をオーグメント(補完)するものと考えられてきたのだが、バーチャル・アシスタントはそれをさらに先に進め、まだユーザーが頭に浮かんでいないことまで「これ、どうですか?」といった風に提示してくれる。「毎週月曜日に電話会議をやっていますが、明日もセットしますか」とか、「そろそろアマゾンで洗剤を購入する時期ではありませんか」みたいなことも、そのうち教えてくれるようになるだろう。

 そうすると懸念されるのが、いつものことながらプライバシー問題である。だが、今回はちょっと様子が異なる。というのも、バーチャル・アシスタント時代はプライバシー情報にこだわるかどうかは、自分の生産性に大きく影響を与えるからだ。

 フェイスブックなど、これまでのインターネット・サービスでは、もしプライバシー情報を収集されるのが嫌ならば、使わなくてもさほどの支障はなかった。もちろん友達と楽しい情報は共有できないし、ソーシャル・ネットワークの常連ではないから、そこでの存在感は薄くなるだろう。だが、それが自分の実生活へ及ぼす影響はごく限られたものであったはずだ。

 ところが、バーチャル・アシスタントは違う。自分の予定、コンタクト先、現在位置、購買歴、好み、家族といったパーソナルな情報をバーチャル・アシスタントに注ぎ込めば注ぎ込むほど、アシスタント機能は高まる。そして、自分がひとつひとつ操作しなくても、バーチャル・アシスタントが先を読んでめんどうなことをやってくれるのだ。買物を忘れたり、アポに遅れたり、道に迷ったりすることはなくなる。仕事の予定まで組み立ててくれるようになるだろう。

 アシスタントは、使えば使うほどに頭も良くなる。したがって、自分のことをよく知る優れたバーチャル・アシスタントを育てているかどうかが、現実的な時間や手間の面で日常生活や仕事の効率性に直結してくるのだ。

 AIは人間的な脳を持った機能と言われるが、本当のAIは人間と「一緒に」働いてこそ最大の能力を発揮する。その意味で、AIとバーチャル・アシスタントは、パーソナル情報という自分の半分をすっかり預けなければならない時代の到来を物語っているのだ。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中が24日会合、貿易摩擦緩和目指し=トランプ氏

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジミール、

ビジネス

米関税措置、独経済にも重大リスク=独連銀総裁
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story