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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
楽天はタブレット端末でアマゾンと勝負せよ
電子書籍リーダーと書店と出版社が一体となった本格的な電子書籍時代が日本にもようやく訪れたようで、よかったと思っていた。日本には本好きが多い。好きな本を電子書籍で買えるようになれば、こんなにいいことはない。狭い家で本の置き場所に困ることもなくなる。
ところが、鳴りもの入りでデビューした楽天の電子書籍リーダーkobo(コボ)は、いきなりコケてしまったとのこと。システム上の不具合、タイトルの少なさ、分類の乱雑さ、時にエロ本がトップページに出現してしまうアクシデントなど、散々だったと聞く。
それはそれで困ったことだが、私がもっと不思議に思っているのは、「なぜこの時期に電子ペーパー端末をを投入するのか」という点だ。なぜ、タブレット端末にしなかったのか。
各社が開発にしのぎを削っているアメリカの電子書籍業界では、電子インクを使う電子書籍専用リーダーはすでに「過去のもの」扱いになっている。アマゾンがキンドル第一号を発売したのは、もう5年前の2007年。それから3世代ほどは電子書籍リーダー型のキンドルを出し続けたが、2011年秋には自社開発のタブレット型多機能端末、キンドル・ファイアを発売している。
その間、2010年春にはアップルがiPadを発売。それ以外にも、サムソンをはじめとするメーカーが大小のタブレットを出してきた。今はタブレット自体が、何世代も更新されている最中だ。
その過程で、アメリカの電子書籍読者は、「もうこれからはタブレットで本を読むのだな」という意識をますます強めてきた。当初は、液晶スクリーンが目に悪いとか、バッテリーの持ちが悪いなどのマイナス要素がしきりに強調された。だが背に腹は替えられない。タブレットならメールもできる、ウェブ閲覧もできる、場合によってはパソコンの代わりにもなる、そして読書もできる。つまり1つで何でもできるという点で、今ははっきりと、電子書籍端末もタブレットに集約される方向に動いているのだ。
インターネットと人々の生活実態を調査するピュー・インターネット&アメリカン・ライフ・プロジェクト(ピュー・リサーチセンター)によると、昨年末の時点で、電子書籍の読者の利用端末は以下のようになる(複数回答):
・コンピュータ 42%
・キンドルやヌックなどの電子書籍リーダー 41%
・スマートフォンや携帯電話 29%
・タブレット 23%
まだまだ電子書籍リーダーの利用者も多いではないかと思われるだろうが、調査会社のパシフィック・クレストが今年の第2四半期に行った「これから買いたい機器」調査によると、キンドルの電子書籍リーダーを買いたいと思っている人は、タッチモデルでも前期の10%から5%に減っているという。キンドル・ファイアすら4.9%から4.5%に減っていて、人々はもっと汎用性のあるハイスペックのタブレットを欲しているのだという(キンドルファイアでは、アンドロイドOSにアマゾンが独自の改訂を加えている)。
時代は明らかにタブレットに向かっている。折しも今夏には、グーグルが200ドルを切る価格で強力なタブレットを発売し、競争に拍車をかけた。
そういうわけなので、待ちに待った楽天の電子書籍デビューの端末が古風な電子書籍リーダーだったのは、何とも腑に落ちない。こう言っては何だが、カラーテレビの時代にモノクロテレビが配られてきたようなものだ。せめて複数の機種を出してくれればよかったのにと思う。今は楽天の子会社になったカナダのKobo社は、キンドル・ファイアに似たカラー液晶のタブレット型端末も海外向けに販売している。日本でもこのモデルを一緒に発売すれば、ユーザーの選択肢とイマジネーションはもっと広がっただろう。
モノクロの電子書籍リーダーは安いので、とっつきやすくするという目的もあったと思われるが、それでは戦略として消極的過ぎる。ターゲットは引退した高齢者なのか、と一瞬考えてしまったほどだ。そもそも、タブレットの価格はどんどん下落してモノクロの電子書籍リーダーとの差は縮小している。
こうなったら、楽天にはいろいろやってもらいたいことがある。様々なKoboモデルを発売することがひとつ。日本語対応のKoboアプリを配布すれば他社製のタブレットやスマートフォンで読めるようにもできるし、何なら自社製格安タブレット開発というのもありかもしれない。
近日中に日本でキンドルを発売するアマゾンは、そうしたことをすべてやって電子書籍時代に賭けているのだ。
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