コラム

ジョブズ後にテクノロジーの未来を指し示すのは誰か

2011年10月20日(木)12時25分

 スティーブ・ジョブズが逝去して、今後のアップルの行方が取りざたされているが、心配なのはアップルの将来だけではないだろう。

 ジョブズが舵をとってきたパーソナル・コンピュータやパーソナル端末のありかたは、シリコンバレーのみならずテクノロジー業界全体に大きな影響を与えてきた。彼がいなくなった今、誰が次世代への指針を示すのだろう。そんな意味でも、ジョブズの不在は大きな損失なのだ。そうした視点から、それでは誰がこれからの「ジョブズ」的存在になり得るのかを考えてみようと思う。

 テクノロジー業界で今うねりを起こしている人間は誰かと思いを巡らすと、すぐに思い浮かぶのが次の3人だ。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、セールスフォースのマーク・ベニオフ、ツイッターのジャック・ドーシーである。

 ザッカーバーグは、今や5億人ものユーザーを持つ帝国のトップ。人気の点でも知名度の点でもジョブズに引けをとらない。ジョブズが端末とインターネットとコンテンツの間で業界を再編成したのと同じようなことを、フェイスブックも行っている。人々のコミュニケーション手段やメデイアへの接点をSNS(ソーシャルネットワーク・サービス)へ統合していることだ。フェイスブックが今後も勢力を増していえば、すでに若い世代がやっているように、われわれユーザーはメールや通常のブラウザーよりも、SNSをインターネット生活の入り口にすることになるだろう。

 ただ、ザッカーバーグ自身について言えば、ジョブズが持っていたようなパーソナリティーとしての面白さはない。もちろんザッカーバーグはまだ27歳。ジョブズの人生に照らし合わせると、アップルIIの大成功によって鼻持ちならない若い創業者として従業員を苦しめていたような時期で、ジョブズはその後アップルを追放される。

 私自身が感じるフェイスブックの「面白くなさ」は、フェイスブックが行っている統合が主に拡大戦略のためである点だ。ジョブズが考えたような「こうしたことができれば、自分たちの生活が楽しくなる」という視点からの出発でないことが、どうしてもユーザーに伝わってしまうのだ。テクノロジー・ユーザーが拡大に身を任せるのか、それとももっと面白いものを要求するのかは、これからのテクノロジーのあり方にとって大きな分かれ目だろう。

 そんな意味から見てみると、セールスフォースのベニオフはちょっとだけジョブズに似ているところがある。セールスフォースは、クラウド・サービスによってCRM(顧客管理ソフト)を提供してきた会社。ベニオフは10数年以上前、人々がまだ眉つばモノと感じていたころからクラウドの有用性を唱えてきた、先見性を備えた人物である。東洋思想への傾倒もそうだが、同社の新開発には「こうやればいいのではないか」という生の職場への提案のようなものがあって、そのあたりがジョブズに通じる。仕事上でのコミュニケーション方法が変わることによって、大げさに言えば、組織の変革も起こるような潜在力があるのだ。

 ただし、セールスフォースのソフトは企業向けなので、個人にはその技術に触れる機会があまりない。それでも、企業向けソフトと個人向けソフトは一部の領域では類似したところもあり、同社の技術やベニオフの考え方が広く理解されて共鳴を生むこともあり得るだろう。

 ツイッターのドーシーは、「美的」要素にこだわる人物である。使いやすさや、それをわかりやすい方法で表現することを最重視する。その点では、テクノロジー界においてジョブズが実現しようとした「リベラル・アーツ(人文科学)」的な要素の大切さをよくわかっているのだ。ただ、ツイッターという技術のかたちが今のところ限られている。今後、どう応用されていくのか、そこにもっと大きな影響力が隠されているはずだ

 この3人に加えて、もちろんグーグルやアマゾンの存在も忘れてはならない。グーグルは今や手がけていることが幅広くて、成功もあれば失敗も多い。だが、テクノロジー産業の進歩の中に、他の業界を取り込んでいくという意味では、大きな影響力を持っている。

 またアマゾンは、アップルのようなエンターテインメント・コンテンツよりも、物販での存在感が大きい。それに来月発売されるタブレット・コンピュータのキンドルファイアも、美的にはiPadほどのこだわりはなく、CEOジェフ・ベゾスの関心は明らかに物流やテクノロジーのインフラの方にある。しかし、オンライン書店から始まってどんどんその姿を変えていくアマゾンの革新性には、決してアップルに負けないところがあるのだ。

 こうして見ると、ジョブズのような求心性を持つ強い人材はなかなかいない。それと同時に、ジョブズが生きた時代、つまり物理的なモノであるコンピュータやiPhoneなどの個人用端末に人々が過剰な愛着を覚えた時代は、これが最後だったのではないかとも思わせるのだ。ジョブズは、iPhoneやiPadというモノと同一視されることで理解されていたと言える。彼の後に残っているのは、SNSとクラウド、インフラというヒントだ。

 上述した企業はどれも、純粋な意味でのハードウェア開発会社ではない。そして、これからはもっとテクノロジーが拡散的に発展していき、端末はその向こうにあるものへの入り口として、さらにコモディティー化し、もっと透明な存在になっていくのだろうと思う。そして今後しばらくは、かたちを持たないインターネットやソフトの世界で、われわれは共鳴を感じる人物を探し求めるのだろう。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

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