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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
癒着だらけ、テック・ジャーナリズムの読み方
新聞や雑誌など、メディア業界が売り上げの伸び悩みに苦しむ中、オンライン・メディアで成功を収めている業界がある。テック(テクノロジー)・ジャーナリズムである。
オンラインのテック・ジャーナリズムは、アメリカでは多くの読者がいることで伸びてきた。業界の動向に関心を抱くのは、層の厚いテクノロジー業界関係者のみならず、ビジネス関係者、金融関係者など、さまざまな人々。ざっと数え上げただけでも、10近いテック・ジャーナリズムのサイトがここ数年の間にスタートして、しっかりとした地位を確立してきた。
ところが、先だってテック・ジャーナリズムのあり方を揺るがすような騒ぎが起こった。特にスタートアップ(新興企業)の動きを報じることで知られるテッククランチが、ジャーナリズムとしての中立性を問われた一件だ。
日本でもテクノロジー業界関係者ならば、テッククランチの名前を知っているだろう。2005年にマイケル・アーリントンによって創設された後、着々と読者数を伸ばし、現在ではスタートアップのコンテストを催す「ディスラプト」という会議も、年に数回開いている。何と言っても、アーリントンの押しの強いキャラクターが築いた人脈が物を言い、スタートアップ業界、投資業界のニュースを嗅ぎ回って、それをいち早く報じてきた。同社は、昨秋AOLに2500万ドルで買収され、今はAOL傘下のニュース・サイトだ。
今回の騒ぎは、かいつまんで言うとこういうことだ。アーリントンがテッククランチのサイトとは別に、スタートアップに投資するベンチャー・キャピタルを立ち上げることになったのだが、その後も尚、テッククランチの編集長職に居座ろうとしたのである。
ジャーナリストの原則のひとつに、自分が報道する業界へ投資してはならないという決まりがある。中立であるはずの報道に、私欲が絡まないようにするためだ。これに照らし合わせると、アーリントンの動きは赤信号だ。そして、ウォールストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズなどが「甚だしい利益相反」と書き立てたのだ。
最終的に、アーリントンはテッククランチを去り、ベンチャー・キャピタル活動に専念することになった。騒ぎはこれで一応収まったのだが、ここで浮かび上がってきたのは、テック・ジャーナリズムの危うい一線である。
たとえば、テッククランチの親会社AOLのCEOは当初、「テッククランチは特別なメディアで、通常のジャーナリズムとは同じ扱いにならない」と発言。しかし、AOL自体がニュース・メディアという立場をとっており、そのトップがそんなことを言ったことで、また批判が集中。しかも、アーリントンの新しいベンチャー・キャピタルには、シリコンバレーの有数ベンチャー・キャピタルに加え、AOLも投資することになっているのだ。こちらも利益相反である。
また、新聞などのハード(真正)・ジャーナリズムの外では捉え方が異なっている。たとえば、インターネット企業IACの会長バリー・ディラーは、「アーリントンを首にしたのは、ビジネス上の失策」と断言、「この件はジャーナリズムとは無関係だ。利益相反だらけだが、役に立つと思うならこのサイトを読めばいい、という立場をとれば済んだのに」と加える(ちなみにIACは、米ニューズウィーク/デイリー・ビーストの50%出資会社)。
ジャーナリズムと呼ばれてはいても、テック・ジャーナリズムは従来の物差しでは測れないという認識が広く共有されているというわけだ。
テック・ジャーナリズムを取り囲む環境も変わってきた。以前と比べものにならないくらいスタートアップ企業の数が増え、まわりに「金になりそうな木」の話がウヨウヨしている。しっかりしないと、ジャーナリストもそんな環境に取り込まれてしまいそうになる。それに、必ずしもジャーナリズムを標榜しないブロガーも多い。
また、単純に紹介すること自体が、スタートアップを後押しする結果にもなってしまうだろう。同様に、テック・ジャーナリズムによくある「レビュー」とは、正当な「評価」なのか、「紹介」なのか、「ファンの賛美」なのか。そのあたりも、ちゃんと目を凝らさないと見分けがつかない。
騒ぎはまだ終わっていない。テッククランチのアーリントンは、スタートアップのコンテストでも、背後で審査員たちに自身の「一押し企業」を強く推薦していたことが明らかになったり、ニューヨーク・タイムズも会社としてスタートアップへの投資があることがあげつらわれたりしている。また、別の有力テック・ジャーナリズム・サイトの創設者も、スタートアップに投資しているらしい。
テック・ジャーナリズムは、本当のジャーナリズムなのか。またそうある必要があるのか。この問いに対する明解な答は、まだない。テクノロジーが「金」に直結している現在の環境でそんな問題を解くには泥沼すぎる。今は、個々の読者が自身で判断するしかないのだ。
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