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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
震災を乗り切るためにIT技術ができること
フェイスブック流行の話題で盛り上がっていた日本が、地震ですっかりツイッターの国になったようだ。
この惨事でツイッターの果たしている役割には、感激するものがある。同じSNSと呼ばれていても、フェイスブックが「囲われた」友達の絆を強めるものならば、ツイッターは「開放型」、「分散型」で、今回のようにいろいろな境界の見えない惨事で威力を発しているのは興味深い。
誰もが感じていることだろうけれど、こうした時に、ただの感情の吐露に終わらず、どれだけ有益な情報が提供できるか、何かを非難することを超えて、どれだけ有効なアイデアや前進する力を与えられるかどうかは、SNSを利用するユーザーが担う責任のようなものでもあると思う。
地震後にアメリカの災害専門家と話をしたが、惨事を切り抜けるのに必要なのは、「エクセレント・マインド(卓越した心の持ち方)」であると語っていた。ネットの利用においても、同じことが言えるだろう。何もできないのが腹立たしい限りだが、日本が何とかこの危機を乗り越えてほしいと、祈るような気持ちで毎日を過ごしている。
さて、こうした事態に、いったいテクノロジーはどんな役割を果たせるのだろうと、考えないわけにはいかない。グーグルは、災害情報をアグリゲートした「グーグル危機対応サイト」を設けているが、これは当初英語だけだったがかなり感心した。人の消息情報や注意報へのリンク、災害情報サイトへのリンク、計画停電情報、そして被災地のために炊き出し場所一覧へのリンクなども統合している。
■ストロング・エンジェルを日本でも
だが、日本にもあった方がいい例として思い出すのは、「ストリング・エンジェル」というアメリカ海軍とテクノロジー企業の合同テクノロジー予行演習だ。
「ストロング・エンジェル」は、2000年から2006年の間に3回にわたって開かれたもので、「大規模な自然災害が起こり、通常の通信ネットワークが破壊され、伝染病も広がっている」といった想定の下に、集まったチームがその場で何らかの有益なシステムやアプリケーションを作り上げようという実地訓練である。
これを始めたエリック・ラスムーセンという海軍司令官(当時)は、医者であり、テクノロジーも理解し、さらにコソボやボスニア、ルワンダ、アフガニスタン、イラク、カトリーナで被害を受けたニュー・オリンズなど、最近の自然災害や人災の被災地域にことごとく足を踏み入れてきた人物である。
彼の呼びかけで、何十もの企業グループや大学の研究者たちが集まり、3日間ほどで何ができるかをやってみる。私は2006年にサンディエゴで開かれた訓練を見に行ったが、集結したのは230人ほどのテクノロジー関係者。広大な物置き場のような屋外に作業場を設け、グーグル、IBM、インテル、マイクロソフト、シスコ・システムズ、アカマイ、クアルコムなどの企業、大学の技術研究室、その他にも新興企業、病院関係者やNPOなどが隣り合わせて日夜作業を続けていた。
そこでできたのは、GPS付き携帯電話で撮影された映像を地図上にマッシュアップ(複数の異なるソースの技術やコンテンツを合わせて新しいサービスを作ること)したものとか、地域のどの病院で何床のベッドが空いているかの情報を統合したサイト、背中に担いできた傘を立て即席でつないだ衛星通信ネットワーク、遠隔地の医者が患者を診察するシステムなどなど、何十もの役に立つテクノロジーだった。中には今でこそ一般に使われているものもあるが、当時は「こんなことができるのか」と驚いたものだ。
■SNS的救済ネットワークもできる
今回の惨事にあてはめて考えると、GPS画像のマッシュアップは、市民が町を歩いて瓦礫に埋もれた人を見つけた箇所を投稿するといったSNS的救済ネットワークとしても利用できる。その他にも、役に立つものばかりだ。
このストロング・エンジェルは、正式な組織も資金もなく、まったくのアドホックで行われていたもので、企業はみな手弁当でここへ来ていた。関心のある社員が上司を何とか説得して参加する類のものだったわけだ。しかし、ここでは企業間の共同プロジェクトも立ち上がっていたし、荒削りではあっても、プレッシャーがあったからこそ生まれた新しいアプリケーションもたくさんあった。
残念なことに、このストロング・エンジェルは、ラスムーセン司令官が海軍を離職したために中断されている。だが、「状況を即時に判断し」「有益なテクノロジーのアイデアを練り」「それを短時間で使えるものに作り上げる」という、災害時に必要なマインドセットと技術力を訓練するまたとない機会だった。
日本でもこうしたことがあれば、惨事のアフターショックを少しでも和らげることができるのだと思う。
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