コラム
酒井啓子中東徒然日記
オバマは若者? :米国の新たな中東政策を巡って
オバマ大統領が新たな中東政策に関する演説を行って、一週間。エジプト、チュニジアの民主化を賞賛し、パレスチナ問題において積極的な姿勢を打ち出したオバマに対して、アラブ諸国のメディアの反応は、概して良好だ。
アラブ諸国で最も影響力があり、知識人の愛読紙である『ハヤート』紙は、「オバマは歴代の米国大統領のなかで初めて、1967年戦争以前の境界を国境とするべきこと、パレスチナ独立国家を樹立すべきことを踏み込んで明言した」と述べ、「パレスチナ人を含めたアラブ民族の側に立った」と褒めた。同じ『ハヤート』紙の別のコラムでは、「この機を逃したら数世代もの間再び訪れないかもしれない、和平への黄金のチャンス」と、高い期待を示している。
アラブ側が好感を持って受け止めているのに対して、イスラエル側の反応は、けんもホロロだ。ネタニヤフ首相は、オバマ提案に対して「米国は現実の政治というものをわかってない」と、即刻却下した。
この三者の構造を単純化して描くと、こうなる。「不正や不平等にNoといって、何が悪い!」と、ストレートに声を出して批判することを覚えた、アラブの民主化推進派の若者たち。「現実の政治は結局のところ、力さ」と、リアリズムに徹する老獪なイスラエルの政治家。そして、自ら「若さ」と「チェンジ」を売りに登場したオバマ大統領が、米国のリアリズム政治を引きずりながら、その間で揺れている。今回の演説は、オバマがイスラエルからアラブに軸足を移したというよりは、「アラブの春」で噴出した若者の自由への希求に、自らの「売り」を再確認したといえるかもしれない。
「改革も和平も、やってみなきゃわからないじゃないか」と、中東のボス政治の古めかしい構造自体を変えようとする若者に対して、露骨に不快感を示しているのはイスラエルの政治家だけではない。米国の最大の協力者であるサウジアラビアの王政もまた、「若者(と米国)は政治音痴で困る」、と臍を噛んでいる。サウジアラビアが資金源となっているアラビア語紙は多々あるが、そのうちのひとつで前述した『ハヤート』紙と並ぶインテリ紙、『シャルクル・アウサト』紙に、3月始め、こういうコラムが載った。
「どんな政権も、変化を求める若者のエネルギーには対抗できないだろう。だが、この革命的変動は、限界にぶち当たる。今起きていることは、地域のパワーバランスを崩すことになるからだ。彼らは、政治的現実というものが想像以上に複雑で、単にスローガンを繰り返すだけで乗り切れるものではない、ということを、早晩知ることになるだろう」。
いかにも、賢しら気な大人が若者の無謀を諭しているようではないか。このコラムが掲載された10日後には、サウジ軍は民主化運動に沸くバハレーンに軍事介入した。オバマ政権は、控えめではあるがこのサウジの行動を批判し、サウジのアブダッラー国王の不快を買ったといわれている。国王は、御年88歳だ。
今のアラブの動乱を若者対老人の戦い、と考えたとき、オバマはどちらに身をおくのか。若者に共感しつつ、老人にうまく丸め込まれるのだろうか。
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