コラム
酒井啓子中東徒然日記
マイケルの死とアメリカのイスラーム
マイケル・ジャクソンの突然の死は、世界中のファンの衝撃だった。7日に行われた追悼式にも160万人の参加応募が殺到し、その豪華さ、盛大さは空前絶後である。
さて、そんな話題のなかで、アラブ系メディアで目を引く報道がある。「はて、マイケルがイスラーム式に埋葬されたかどうかは、定かではない。」
マイケル・ジャクソンがイスラーム教徒だった? 実は昨年11月、マイケルがイスラーム教徒に改宗した、との報道があるのだ。すでに1989年に改宗していた兄のジャーメイン・ジャクソンの薦めで改宗し、名前もイスラーム教徒風に、ミカエルと変えた。2005年にバハレーンに行ったときには、モスクを建てる決意をした、とも報じられている。
英米で有名人がイスラームに改宗することは、珍しいことではない。特にスポーツ界では、ボクシングのカシアス・クレイ(改宗後モハメド・アリと改名して、日本でアントニオ猪木と異種格闘技を戦ったのは、有名)、マイク・タイソンの他、NBLでは80年代半ばまで花形スターだったルー・アルシンダーなど、枚挙に暇がない。マイケル同様、音楽界でも珍しくなく、ジャズのアート・ブレー
キーやレゲエの"神様"ジミークリフ、最近ではラッパーのアイス・キューブの改宗が有名だ。筆者の世代に懐かしい名前としては、最近CMでも使われた「雨に濡れた朝」が有名なキャット・スティーブンスがいる。
ロンドン出身のキャット・スティーブンスを除いて、改宗者にアフリカ系アメリカ人が多いことは、アメリカのイスラーム改宗の大きな特徴だ。60年代、黒人解放運動のなかで重要な役割を果たした「マルコムX」は、1992年に映画になったことで再び注目を浴びたが、彼にとって改宗は、人種差別と犯罪にまみれた環境から脱出する道だった。それはキリスト教徒となる前のルーツ探しの結果でもあり、肌の色の違いによって差別されないイスラーム社会への憧憬だったといえる。マルコムXの影響を受けたモハメド・アリが、良心的兵役拒否でベトナム戦争への徴兵を断ったことは、よく知られている。
初のアフリカ系アメリカ人大統領の誕生が決定したのとほぼ同じ時期に、マイケル・ジャクソンがイスラーム教徒に改宗したのは、何か関係があるのだろうか。ちなみに、オバマ大統領自身、父親がイスラーム教徒である。イスラームでは、イスラーム教徒の父を持つ子供は、自動的にイスラーム教徒として生まれる。アメリカの長い道のりのなかで、黒人への差別を乗り越えることが、イスラーム教への偏見を乗り越えることになるだろうか。
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