コラム

「神と銃」レーナード・スキナードが歌うアメリカ

2010年10月28日(木)14時55分

レーナード・スキナードの新曲「それは俺のアメリカと違う」
 

 去る9月20日、レオナード・スキナーが77歳で死んだ。

 レーナード・スキナードのバンド名の元になった人物だ。

 高校の体育教師で、厳しく頑固で、長髪を絶対に許さなかった。髪を伸ばしていたロニー・ヴァン・サントはスキナーを揶揄して自分のバンドをレーナード・スキナードと名付けた。

 そのロニーをはじめレーナード・スキナードのメンバーの大半が飛行機事故で亡くなったのは1977年10月20日だった。

 ファンだった。74年の映画『ロンゲストヤード』で、バート・レイノルズがシトロエンで暴走するシーンで流れる「サタデー・ナイト・スペシャル」を聴いて夢中になり、ライブ盤は擦り切れるほど聴いた。

 レーナード・スキナードの歌はこのうえなくアメリカ的だ。バカがつくほど単純で、自由だ。「シンプルマン」と「フリー・バード」の2曲がそれを歌っている。


ガキの頃、ママが言った

お空の上には神様がいるんだよ

だから坊や、単純な男になっておくれ

(「シンプルマン」)

「単純な男になれ」と息子に願う親が日本にいるだろうか? これは「神は素朴な者こそを愛する」というアメリカのキリスト教福音派特有の考え方だ。

 鳥のように自由なオレを変えることはできないと歌う「フリー・バード」は、アメリカの国是が「自由」だということを思い出させる。アメリカの草の根保守とは、「何もかも自由にしろ。軍隊以外の国家機能は必要ない。銃も好きに持たせろ」というリバータリアニズム、はっきり言ってアナキズムなのだ。頭の上には政府はない。神だけだというわけだ。

「フリー・バード」は最近では「デヴィルズ・レジェクツ」(05年)で使われた。あらゆるモラルを踏みにじる殺人狂一家が道路封鎖をする警官隊に突撃、玉砕するラストで、究極の自由を謳歌するように流れて感動的だった。ただ、この映画の的はキリスト教福音派の保安官なので、作詞したロニーが生きてたら複雑な気持ちだろう。

 複雑といえば、僕は彼らの「スィート・ホーム・アラバマ」(74年)が大好きだったのだが、後で歌詞の意味を知って複雑な気持ちになった。

ヤングさんが彼女(アラバマ)を蔑むのを聴いた

二ール・ヤング、覚えてろよ

サザン・マン(南部男)はお前なんか必要ない

 これはニール・ヤングの「サザン・マン(南部男)」(70年)と「アラバマ」(72年)という歌へのアンサーだった。

 ニール・ヤングは60年代後半、マーティン・ルーサー・キングが率いた黒人公民権運動がアラバマ州で弾圧されたことを歌っている。

南部男たちよ

気をつけるがいい

聖書に書いてあることを忘れるな

いつかは南部も変わるんだ

お前たちの十字架もすぐに燃え尽きるさ

(「サザン・マン」)

 当時、南部では南北戦争以来100年も人種隔離政策が続き、バスの席やレストラン、学校、すべて白人と黒人は別々だった。特にアラバマ州知事ジョージ・ウォーレス(民主党)は「今、ここで人種隔離を! 明日も人種隔離を! 永遠に人種隔離を!」と演説したことで悪名高い。ちなみにその演説を書いたフォレスト・カーターは後にチェロキー・インディアンの子どもとして『リトル・トゥリー』を書いたが、実際はまったくインディアンの血は流れていない。

 レーナード・スキナードの『スイート・ホーム・アラバマ』の歌詞にもウォーレス知事が登場する。

バーミンガム(アラバマの州都)ではみんな知事を愛してる

 後にロニーは「スイート・ホーム・アラバマ」の歌詞は誤解されていると説明した。「知事を愛してる」と言った後に「ブー、ブー、ブー」とブーイングを入れているし、「ウォーレスが黒人に対して言ったことには同意できない」とロニーは言う。要するにカナダ人である二―ル・ヤングが南部を批判したことにちょっとカチンときただけのことらしい。実はロニーもアラバマ人ではない(フロリダ出身)。

 72年、ウォーレスは人種隔離政策の過ちを認め、公式に謝罪してから、民主党の大統領予備選に出馬した。しかし、アーサー・ブレマーという男に撃たれて半身不随になった。ブレマーに政治的意図はなく、恋人も友人もなく惨めな人生に苦しみ、暗殺で有名になれると思っただけだった。ブレマーの日記は出版され、それを読んだ脚本家ポール・シュレイダーは映画『タクシー・ドライバー』のインスピレーションを受けた。

 レーナード・スキナードは87年にロニーの弟ジョニーをボーカルにして再結成され、今も活動を続けている。歌詞は年々右傾化し、今年発売されたアルバムはなんと『ゴッド・アンド・ガン(神と銃)』という強烈なタイトル。シングルカットされた「That Ain't My America(それは俺のアメリカと違う)」は、全米に広がっている反オバマ政権運動ティーパーティの集会でよく流れている。

聖書と銃を握った男と女

そのどちらかを持っていれば

何も恐れることはない

学校で神に祈っちゃいけないんだって?

ここはそんな国のはずがない

それは俺のアメリカと違う!

 いや、政教分離は合衆国憲法修正第一条で定められているんだけど......。「俺のアメリカ」は、どうも彼らの脳内だけのアメリカらしい。

プロフィール

町山智浩

カリフォルニア州バークレー在住。コラムニスト・映画評論家。1962年東京生まれ。主な著書に『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文芸春秋)など。TBSラジオ『キラ☆キラ』(毎週金曜午後3時)、TOKYO MXテレビ『松嶋×町山 未公開映画を観るテレビ』(毎週日曜午後11時)に出演中。

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