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コラム
町山智浩やじうまUSAウォッチ
キテレツ発明品まつり「メイカー・フェア」は役に立たないのが楽しい!
銀色に輝く流線型のロケット。1930年代のパルプ雑誌の表紙にあったような宇宙船が目の前にそびえたっている。本当に金属製で、10メートルほどあって人間が乗れる大きさだ。
その向こうでは蒸気機関で動くロボットが白い湯気を吹き上げて人力車を引いている。スティーム・パンク――内燃機関が発明される前に人類が夢見たハイテクだ。
こちらではライブ演奏が始まった。楽器の周りで何人もが汗びっしょりで自転車をこいでいる。このアンプはすべて人力発電機を電源にしているのだ。
真っ赤な消防自動車がある。ただしホースから吹き出すのは真っ赤な炎だ。英語で消防車をファイヤーエンジンと呼ぶからって本当にファイヤー出すなよ!
そこら中、奇想天外というか奇妙奇天烈なメカやマシンだらけで超ワクワクする「メイカー・フェア」に行って来た。
今年はカリフォルニア州サンマテオで5月22・23日に開かれた。DIY(Do It Yourself)の雑誌『メイク(Make)』が2006年に始めた愛読者の集いで、今では全米各地を巡回する人気イベントだ。
『メイク』誌は日本でいえば『大人の科学』みたいな雑誌。子どもの頃、ハンダごてでラジオを作った人なら胸がキュンとする科学工作の例が沢山詰まっている。『大人の科学』みたいに値段が高くない代わりに立派なキットはついてない。一般の読者が家にあるものや廃物を利用して作った「発明品」を投稿し、それを掲載するシステムなのだ。
たとえば、「ビデオデッキのタイマーを利用して猫に決まった時間に自動的にエサをあげるマシン」とか、「使わなくなったマウスを改造して、本当に床を走り回るネズミ・ロボットに」とか、「たった5ドルでできるクラッカーの箱を使ったギターアンプ」とか。とにかく製作費が安いのがうれしい。
「ジャムの瓶で作るジェット・エンジン」や「自宅で作るバイオ・ディーゼル燃料」なんてのもある。研究所でしか扱えないと思っていたテクノロジーを台所で実験できるのが素晴らしい。
メイカー・フェアは、そんな発明家や工作家たちの大集会で、ソック・モンキー(靴下で作った猿のぬいぐるみ)みたいな簡単な手芸キットから、自作R2-D2(『スター・ウォーズ』のロボット)なんて高度なものまで出品されている。
『メイク』誌の編集長マーク・フラウエンフェルダーはテック系の有名ブログニュースサイト、ボイン・ボイン(Boing Boing)の創設メンバーの一人でもある。50年代のティキ(ハワイ風)なイラストレイターとしても知られ、ティキ趣味が高じて、今は南太平洋のラロトンガ島に妻子と共に暮らし、ネットを使って『メイク』を編集している。
そのフラウンフェルダーが新しい本を出した。『手で作る/使い捨て社会に意味を求めて』というタイトルが示すように、今の世の中、何でも完成したものを買ってきて、動かなくなると買い換えるようになってしまった。昔は生活に必要なものはみんな自分で作っていたのに。
といってもメイカー・フェアは一獲千金を目指す発明家たちの品評会なんかじゃない。
たとえば高性能スピット・ガン。スピット・ガンとはストローの袋を唾で濡らして玉にしてストローで吹いて飛ばすイタズラだが、それの高精度版を作ろうというのだ。
これに何の意味がある?
飛ばない銀色のロケット、炎を吹く消防車、ジャム缶で作ったジェット・エンジン......どれにも意味はない。まったく商売にならないところが、いい。
「『メイク』が楽しいのは、必要なものを作らないことなんだ」フラウンフェルダーはインタビューで言っている。必要性とか利益を考えると、楽しくなくなってしまう、と。
今の世の中、効率ばかり考えると、逆に人はものを作らなくなる。わざわざ苦労して作ったり修理するよりも買ってきたほうが早いし安いから。人件費の安い国で作らせたほうがいいから......。
フラウエンフェルダーはスティーヴン・コルベアの番組に出演したことがある。コルベアは保守で新自由主義の政治コメンテイターのフリをして彼らを皮肉るコメディアン。彼はフラウンフェルダーを「みんなが『メイク』を読んで何でも自作するようになったら消費が衰えますよ」と非難した。「ものは全部中国人に作らせればいいんです」
だからダメになっちゃったんだよ!
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