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コラム
町山智浩やじうまUSAウォッチ
ダコタ・ファニングが家出娘の悩殺爆弾 蘇るランナウェイズ
ハロー、ダディ、ハロー、マム
私はチチチチチ、チェリー・ボム!
1977年、ザ・ランナウェイズが日本にやって来てNHKの『レッツゴーヤング』に出演した。チェリー・カーリーは下着姿で股をガバっとガニマタに開いて腰をグラインドさせたがNHKはロングショットでしか写さなかった。翌日月曜日に学校に行くと男子生徒たちは「昨日ランナウェイズ見た? すげえ小っちぇえパンツ!」と盛り上がり、女子は「男子って嫌ねえ」と眉をひそめていた。
しかしチェリー・カーリーが書いた自伝『ネオン・エンジェル』によると、来日したランナウェイズに殺到したファンは女子中学生や高校生ばかりだったという。制服向上委員会など存在しない時代のモッサい制服の胸の奥で日本の処女たちはアメリカから来た家出娘たちに憧れ、鏡の前で舌出して中指立てたりしていたのだ。
さて、その『ネオン・エンジェル』が『ザ・ランナウェイズ』のタイトルで映画化された。ジェイルベイト(刑務所のエサ。うっかり淫行しそうになるエロい未成年女子のこと)の極みのようなチェリー・カーリーを演じるはなんとダコタ・ファニング! 「ダコタん」もとっくに15歳で、チェリーがデビューした頃と同い歳なのだが、下着姿で踊るだけじゃなく、トイレでローディと立ち×××し、ハッパ、コカイン、睡眠薬とあらゆるクスリをやりまくる、まさにセックス&ドラッグ&ロックンロールな演技には『アイアム・サム』のいたいけな娘に泣いた人たちはショックだろう。
ランナウェイズのリーダー、ジョーン・ジェットは『トワイライト』で大人気の幸薄系美少女クリステン・スチュワート。映画はジョーンがライダーズの革ジャンを買おうとして「これは女の着るもんじゃない」と断られるところから始まる。当時はまだロックンロールを演奏するのは男。女はグルーピーと決まっていた。ジョーンは当時貴重な女性ロッカーだったスージー・クワトロに憧れ、女だけのバンドを作ろうとする。
その話に乗ったのはキム・フォウリーという音楽プロデューサーだった。フォウリーは彼のことを描いた『サンセットストリップの市長』というドキュメンタリー映画があるほど強烈な人物。演じるのはマイケル・シャノン。『レボリューショナリー・ロード』で「本当のことしか言えない病気」の男を演じて、ほんの数分しか出番がないのに映画をさらってしまったシャノンはここでも始終ハイテンションで「お前たちをロックスターにしてやるぜー!」と絶叫する。
ガールズ・バンドを売り出すコンセプトを探していたフォウリーはバイクにまたがったブリジット・バルドーの写真を見て「これだ! セックスだ!」とひらめき、チェリー・カーリーをリードボーカルにスカウトする。しかしチェリーにロック魂はなかった。不幸な家庭環境から抜け出したいと思っただけだったのだ。それが結果的に解散に結びついていく。
原作がチェリー・カーリーの自伝なので、主に彼女の視点で描かれているが、この映画の本当のヒーローはジョーン・ジェットだ。バンドが空中分解し、何もかも失った彼女に残ったのはロックンロールへの愛だけだった。その思いをストレートにぶつけた「アイ・ラブ・ロックンロール」は大ヒットし、永遠のロックのアンセムになった。実はジョーン・ジェットはこの映画のエグゼクティヴ・プロデューサーでもある。ということは、ジョーンが「タチ」としてチェリーとレズビアン・セックスする場面は事実なのだろう。
チェリー・カーリーはバンドを辞めた後、女優を目指したが、『トワイライトゾーン超次元の体験』(83年)で超能力を持つ弟に口を奪われてしまった姉という悲惨な役以外に目ぼしい仕事はない。
今週号の『ピープル』誌はランナウェイズのメンバーの現在を追っている。チェリー・カーリーはチェーンソーで丸太を削る彫刻家をやっているとのことだが、あまりに老けこんでいて往年の面影はない。ジョーン・ジェットとリード・ギターのリタ・フォードは今もロッカーとして活躍している。ロックし続けている2人の容貌は昔とそれほど変わらない。ジョーンの「バッド・レピュテーション」は今もアメリカのティーンたちに歌い継がれている。
評判なんて気にしない
あんたらは過去の遺物
世代は変わったのよ
女の子はやりたいことをやっていいの
あたしもやるわよ
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