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コラム
町山智浩やじうまUSAウォッチ
拳銃を持ったサッカー・マムの最期
今、耳がよく聴こえない。
先週、ケンタッキーでバカでかい銃を撃ち過ぎたせいだ。
陸軍士官学校のあるウェストポイントにあるノブ・クリーク・ガン・レンジはアメリカでも数少ない、機関銃が撃てる射撃場。毎年4月と10月の2回、全米からガンマニアが集まってミニガン(バルカン砲)や火炎放射器を撃ちまくる。訪れた日は月曜日なのでマシンガンのレンタルをしていなかったので、ショットガンや44マグナム、M16ライフル、それに50口径オートマグを借りた。
それでパンプキンをバカバカ撃っていたら、隣のレンジに、身長160センチくらいのやせっぽちで色白でメガネの少年がやって来た。彼は背負ったバッグから大砲のようなライフルを出して、細いニンジンほどの弾丸を装填して撃った。
銃声というよりも落雷だった。衝撃波で、半径2メートルほどの地面から砂埃が舞い上がる。それは対物ライフルだった。航空機も撃ち落せる50口径の巨弾で、装甲車の鉄板を貫通し、コンクリートの壁を撃ち抜き、1キロ先の標的を倒す銃だ。映画『ロボコップ』に対ロボコップ銃として登場するアレだ。
「撃ってみる?」
よっぽど撃ちたそうに見えたのか、彼―― 子どもに見えたが実は22歳の士官学校卒業生のニール君――が対物ライフルを差し出して微笑んだ。
オレが撃ってもいいの?
思わず頬を緩ませて、数百メートル先の標的をスコープで狙ってトリガーを引いた。
キーーーーーーーン。
耳栓はしていたのに......。それ以来、ずっと耳鳴りが続いている。
イイ年こいて何やってるんだと思うだろう。でも、銃はやっぱりアメリカならではのギルティ・プレジャー(罪深き快楽)なんだよね。百害あって一利なしとわかっていても大排気量のバイクやアメ車でフリーウェイ飛ばすとスカっとするし。
「お前ら、好きだなあ」店員が呆れて笑った。「そんなに銃が好きなら、憲法変えればいいじゃないか」店の壁には合衆国憲法修正第二条が掲げてあった。
「規律ある民兵は自由な国家の安全に必要であるゆえ、人民が武器を保有し、携帯する権利は、これを侵してはならない」
この2週間ほど前、修正第二条をめぐって論争を巻き起こした母親が死んだ。
1年前の2008年9月11日、ペンシルべニア州のレバノンという町で、メラニー・ハイン(31歳)という3児の母が、5歳の娘のサッカーの試合の付き添って、腰のホルスターにグロック26という自動拳銃を差してフィールドに現れた。
実弾が装填されていると知って他の親たちやコーチは震え上がり、ハインに拳銃を持ち込まないよう頼んだが、彼女は言うことを聞かない。そこで彼らは地元の少年少女サッカー・リーグに訴えた。腰に拳銃を差したサッカー・マムの姿は全米のテレビや新聞を飾った。
郡の保安官はハインから拳銃の所持許可証を取り上げたが、ペンシルベニアでは、学校や法廷、公共の交通機関でなければ、拳銃の携帯は合法である。法律を犯していないハインはすぐに許可証を取り戻し、逆に保安官に対して100万ドルの損害賠償を請求した。
それにしても、レバノンは人口わずか2万4000人、犯罪も多くない比較的安全な町だ。なぜ、ハインは拳銃を5歳の少女のサッカーの試合などに持ち込んだのか? 地元新聞ペンシルベニア・ペイトリオット・ニュース紙の質問に対して、彼女はこう答えた。
「気に食わないかもしれないけど、私は自分の行動について世間に認めてもらう必要はないわ。そんなこと不可能だという結論に至ったのよ。傲慢に聞こえるだろうけど......合衆国憲法は私に銃を携帯する権利を保障している。それ以上言うことは何もないわ」
同新聞のネット版のコメント欄は「意味不明だよ! この××××!」という罵倒と「よく言った! 市民武装の権利万歳!」という賞賛とでヒートアップした。その後もハインは実弾入りの拳銃を持ってサッカー場に現れ、サッカー少女とその親たちを怯えさせ続けた。
それから1年後の10月7日夜8時頃、メラニー・ハインは友人とパソコンでビデオ・チャットをしていた。その友人はモニターを通して、保護監察官をしている夫スコットがメラニーを射殺する瞬間を目撃した。夫はすぐに自分の頭を撃ち抜いて自殺した。3人の子どもに怪我はなかった。夫婦は最近、家庭内別居状態にあったらしい。銃ってやっぱり素晴らしいね。危険なガン・クレイジーを退治してくれたんだもの!
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