コラム

「独りよがりの国際支援」とは?

2011年01月24日(月)10時00分

 去年1月に起きたハイチの大地震から1年。なかなか復興できない現地の様子が伝わってきます。復興が進まない現実に、ハイチの人々の不満は高まります。どうしてなのか。本誌日本版1月26日号に、「ハイチの自立を阻む独りよがりの国際支援」という記事が出ています。国際社会は、ハイチのことをよく知らないまま、独りよがりの支援をしているという批判的な記事です。

 ハイチの大地震が発生した2カ月後、国連本部で支援国会合が開かれました。約140カ国の代表や支援団体が集まり、3年間で総額99億ドルを拠出することで合意しました。その当時、ハイチの人々は、どんな復興を望んでいたのか。市民団体が聞き取り調査したところ、多くの人たちが、「国際社会から受動的に支援金をもらうのではな」く、「裕福なハイチ人も貧しいハイチ人も一緒になって、国の経済発展に参加できる変革の時代が始まると期待していた」のだそうです。

 その結果はどうだったのか。ハイチの著名なラジオジャーナリストのミシェル・モンタ氏は、国連の平和維持活動の特別顧問になって復興に関与しようとしたのですが、「深い挫折を味わっている」というのです。

 それはなぜなのか。「ハイチの人々には生き残るための自分たちのシステムがある」のに、支援団体は、ハイチが「白紙の状態」だと思っているからなのだそうです。

 ハイチ実業家協会のジョルジュ・サッシヌ会長は、支援団体の「NGOにしてみれば、自分たちの仕事がなくならないよう、私たちに何か問題があってほしい」「私たちはもっと多くを自分たちでやらなければならない。自分たちで多くをやるほどNGOを必要としなくなる」と主張します。

 なるほど。こうした発言は、アフリカなど国際援助を受けている国の現場でよく聞く話です。欧米の国際援助団体の中には、自分たちの勝手な思いだけで援助を押しつけ、現地の人たちが受け入れることを求めている組織があるという批判です。

 しかし、この記事では、「独りよがりの国際支援」がどんなものか、具体例がまったく出てきません。これはタイトルの翻訳の問題なのかと思って、原題を見ると、「国際援助はハイチを貧困のままに留めているのか?」となっています。うーむ、この原題に答える内容にもなっていない。

 国際援助が独りよがりになり、現地の復興に役立っていないどころか、かえって有害なものになっているという指摘は、よく聞かれます。でも、具体的に何が問題なのかを提示しないと、援助の改善には役立ちません。「問題があるのだ」という抽象的な指摘は、現場を見ようとしない、頭でっかちなジャーナリストによく見受けられることです。ジャーナリストの「独りよがり」の指摘は、現状を変える力にはならないのです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story