コラム

レアアースは枯渇するか

2010年10月28日(木)15時17分

 日中関係が悪化して以降、中国は日本に対するレアアースの輸出を制限しています。中国政府は表向き、これを否定していますが、実際に日本への輸入が滞るという影響が出ています。

 日本のメディアでは、日本への輸出が制限されたことばかり報じられますが、実は中国は、欧米への輸出の制限も始めているのです。

 本誌日本版11月3日号の記事「『レアアース枯渇』中国の言い分は本当か」は、この問題を取り上げています。

 中国が欧米へのレアアースの輸出を制限したことで、「風力タービンやミサイル誘導システムなどにレアアースを使用するハイテクメーカーが打撃を受けている」というのです。

 日本国内では、携帯電話やパソコンなどのハイテク製品の製造に影響が出ることばかり伝えていますが(私もテレビで、そういう伝え方をしていますが)、ミサイル誘導システムの生産にも影響が出るとは。中国にとってアメリカのミサイル誘導システムは脅威ですから、レアアースの輸出制限には、軍事的な意味もあるのかも知れない、と考えさせられます。

 中国は、欧米向けのレアアース輸出制限の理由を、「国内のレアアースが今後20年間で枯渇する恐れがある」と主張しています。この記事は、中国の主張を受けて、レアアースは地球上から枯渇する恐れがあるのかを考えています。

 採掘する鉱物資源の値段が安いうちは、採掘コストの低い鉱山しか採算が合いませんが、値段が上昇するにつれ、高い採掘コストをかけても充分に採算がとれるようになってきます。鉱物の「確認埋蔵量」が次第に増えてくるというわけです。

 なので、この記事は、こう書きます。「最近では特定資源の枯渇を心配する経済学者はほとんどいない。人類はこれからも新たな鉱脈を発見し、希少資源の代用品を発明し続けるだろう」と。

 まあ、それはそうでしょう。世界全体で見れば、レアアースは簡単には枯渇しないでしょう。現に、「米カリフォルニア州には、中国が低コストでレアアースを採掘し始めた90年代から休眠状態の鉱山がある」そうです。

 なんだ、アメリカは大丈夫、という記事でしたね。日本は日本で、中国に代わる輸入国を確保しなければなりません。

 中国がレアアースを外交カードに使った結果、日本の産業界は、世界各地でレアアース確保に動いています。脱・中国が加速しているのです。

 世界各地でレアアースの採掘が始まれば、中国の優位は崩れます。現在の中国はレアアースの価格決定権を確保していますが、2012年には、それも失われるでしょう。中国が外交カードに使ったのは、戦略的に大失敗だったのかも知れないのです。

 この記事は、最後に、アメリカ以外にもレアアースは存在するとして、こう書いています。「月にもかなりの量のレアアースがあるとみられる。ただし、宇宙エレベーターのようなものを利用して採掘できるようになるまで、1~2世紀はかかるかもしれない」と。

 おい、おい、論旨に飛躍がありすぎるよ。まるで重力の低い月の上みたいに飛躍しすぎ。

 世界のこれからのレアアースの採掘戦略に触れることなく、月に話を持っていってしまっては、ルナティックですよ。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 被害状

ビジネス

アングル:中国本土株の投機買い過熱化、外国投資家も
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story