コラム

「メディアと決別せよ」とメディアが叫ぶ

2010年03月23日(火)14時19分

「大統領にとって、批判より怖いのは報道されないことだ」

 なるほどねえ。政治家一般に言えることでしょうね。いや、お笑い芸人だって、タレントだって、同じことかも。批判されているうちが花なのですね。

 ここでいう「大統領」とは、もちろんアメリカのオバマ大統領。本誌日本版3月24日号で、本誌ワシントン支局のファインマン記者が書いている記事の中に出てくる文章です。日本版の記事の見出しは、「オバマは堂々とメディアと決別せよ」。

「メディアは、もうオバマに飽きてしまった」というのです。主要メディアは、「オバマは役に立たないし、ゲームのやり方を知らず、何一つやり遂げていない」とみなすようになったとか。

 なんだか、どこかの国の首相とメディアの関係と酷似しているようにも見えます。

 そこでファインマン記者は、オバマにこう助言します。

「オバマは、われわれメディアが書いたり言ったりすることを気にするのをやめるべきだろう」「メディアがオバマに好意的な解釈をするなどと期待するのは間違っている。われわれは平気で発言をねじ曲げる。友人としては頼りがいがなく、最低だ。世論の風向きをうかがい、支持率が下がれば走り去る」

 なんとも大胆なアドバイス! メディアの中にいる人間として、ファインマン記者は自虐的ですらあります。

 でもまあ、私もファインマン記者の見解に頷いてしまいます。大統領も首相も、自分を取材する周囲の記者たちと良好な関係を築き、仲良くしたいと考えますが、記者たちにも仕事があります。取材対象を批判するのも大事な仕事。結局、取材された政治家は、記者たちに不信感を抱きます。こうして両者のハネムーン期間は終わります。

 とはいえ、相手に耳障りであっても、真実を告げ、自分の正体を明らかにするのは、真の友人である証拠。ファインマン記者は、実に逆説的に、オバマへの愛の讃歌、応援歌を歌っているのではないでしょうか。

 記者という人種は(私もそうですが)、素直ではなく、露悪趣味で、ひねくれているものなのですから。

 この記事が言いたかったことを、私が翻訳しましょう。

「オバマよ、メディアを気にせず、己が信じた道を進め。されば、道は開かれるであろう」

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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