コラム

中国の事情を洞察しているが

2010年02月09日(火)17時08分

「ニューズウィーク」を読む利点のひとつは、日本国内の論稿を読んでいては得られない発想に触れることが可能なことです。日本版2月10日号に、そんな記事がありました。

 この号は、中国が世界第2位の経済大国になることについて、さまざまな視点からの記事を掲載しています。この中に、「ならず者国家との『皮算用』外交」という面白い記事がありました。

 中国は、核開発を進めている疑いの濃いイランに対して、欧米諸国のような強硬な態度をとりません。6カ国協議に戻ろうとしない北朝鮮に厳しい態度をとることもなく、ダルフールでの虐殺に手を染めているスーダン政府と良好な関係を保ち、反政府勢力を弾圧するビルマ(ミャンマー)政府を批判することもありません。

 こうした中国の勝手な態度に、憤りを抱く国も多いのですが、そこにはそれなりの理由があると、この記事の著者は解説します。

「もちろん中国の行動の一部は単純に経済的な関心に基づいている。これらの国には資源採掘の膨大なチャンスがある」

「とはいえ、カネ儲けがすべてというわけではない」と、著者は言います。中国政府は「スーダンに平和維持部隊の受け入れを促すなど、いいことも少しはしている」と評価するシンクタンク研究員の発言を紹介しています。

「中国は自らの成功談を餌に、ならず者国家の指導者に対し、国民に自由を与えなくても経済を自由化できることを示そうとしている」「中国政府はノーベル平和賞には値しないかもしれない。だが、少なくともこういった国の政権安定化に貢献し、ソマリアのような混乱に陥るのを防いでいる」

 なるほどねえ。そんな見方も可能なのですか。

 もちろん、この方が中国にとって都合がいいという事情もあります。「スーダンが寛容で紛争のない国際社会の一員になれば、欧米からの投資は今よりはるかに増加し、中国企業が競争にさらされる」「イランの反体制派によって政府が倒されれば、中国国民が『抵抗』を思い出すかもしれない」

 だから、中国にとっては、「ならず者国家」が現状維持でいてくれるのが一番、というわけです。

 ところが、この記事の記者は、「これらの国と中国の関係は、困難な時期に差し掛かっているのかもしれない」と指摘します。おお、それは新しい動きですね。どんな点なのでしょうか。スーダンの大主教が中国を批判したことと、「イランのハッカー『イランサイバー軍』は最近、中国最大の国産検索エンジン『百度』にサイバー攻撃を仕掛け、そのホームページにイラン国旗を掲げた」からだというのです。

 イスラム国家の中でのキリスト教大主教の発言の影響力は限られますし、イランのどんな人物が実行したことかも不明なのに、これだけで「困難な時期」の例証にしてしまうのは、あまりにご都合主義。せっかく中国の立場を斜めから見た面白い論考なのに、わずかな例から結論を引き出す手法は乱暴すぎました。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story