コラム

今の英国は半年前の日本だ

2009年11月11日(水)10時00分

 政権与党に人気がなく、首相も頼りない。だからといって野党にさして魅力があるわけではないが、今の与党よりはマシだから、次の選挙では野党に投票してみようか。でも、新政権は、過去の政権がのこした史上最悪の財政赤字を引き継ぐことになる...。

 まるで、この夏前の日本の政治状況のようですが、これが今のイギリスだそうです。本誌日本版11月4日号の「英保守党の暗すぎる船出」は、そんな状況を描いています。

 イギリス下院の任期は来年6月に切れるため、それまでに必ず総選挙が実施されます。野党である保守党の支持率は、与党・労働党に対して支持率で10ポイントを超えるリードを保っています。

 しかし、それは保守党に魅力があるからではなく、与党の労働党が不人気だからです。「最近の世論調査では、保守党に投票するつもりだという有権者のうち、党に『肯定的な』イメージを持っているのはわずか32%」なんだそうです。

 どうですか。「保守党」を民主党に、「労働党」を自民党に置き換えて読めば、まるで半年前の日本の政治状況のようではありませんか。

 保守党のキャメロン党首が来年中にはイギリスの新しい首相に就任するのは確実でも、「来年の総選挙で保守党が確保する議席の最大3分の1は新人議員になる見込みだ」と。今の民主党そのものではありませんか。

 しかし、キャメロンには強みもあるそうです。それは、何か。

「彼には現代の首相に求められる資質がたくさんある。聡明で、好感が持て、テレビ映りがよく、名家の育ちと名門(中略)大学時代に培われた自信がある。家庭人というイメージ戦略も怠らない」

 どうですか。鳩山由紀夫首相とイメージがだぶりませんか。

 でも、キャメロン党首に対する批判もあります。いわく「いまだに独自の外交政策を詳細にしめさず」

 どうですか。どこぞの党を彷彿とさせませんか。

 こうなると、イギリスの人々には、今の日本の政治を見ることをお勧めしたくなりますね。今の日本は、来年のイギリスを予見するようなものだからです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story