コラム

GM破綻のもうひとつの現実

2009年06月10日(水)11時10分

『ニューズウィーク』を読むと、いつも新しい発見があります。GM破綻に関しても、私の視野に入っていなかった側面を教えてくれました。それが6月10日号の「GM破綻で儲ける人々」という解説でした。

6月1日、GMが破産法11条の適用を申請して、破綻処理のシステムが動き出しました。このニュースはテレビでも新聞でもたっぷり取り上げられていますが、『ニューズウィーク』は、違った側面に光を当てました。

破綻処理の過程では、債権者にどれだけの債権を渡すか、新生させる企業にどれだけの財産を残すか、ひとつひとつ決める事務処理を進めなければなりません。

ところが、この解説を読むと、この過程で多額の利益を手にする集団が存在するというのです。それが、「企業の再建や弁護、整理を請け負う弁護士や会計士、金融の専門家たち」です。

破産手続きに関わった法律事務所や会計事務所は、業務に関わった料金を時間単位で請求します。そういえば、ジョン・グリシャムの法律サスペンス作品『法律事務所』には、新人弁護士が、仕事の報酬は時間単位で料金を請求するように先輩から指導される場面がありました。

GMの破綻処理に時間がかかればかかるほど、業務を請け負っている法律事務所や会計事務所に巨額の収入をもたらします。「法律事務所は、破綻企業だからといって値引きすることはない」のです。

では、その"時間給"はどれくらいのなのか。リーマン・ブラザーズの破綻処理に当たった筆頭格の破産弁護人は、時間報酬950ドルで794.8時間分を請求したそうです。計算すると、75万5060ドル。ざっと7250万円ではないですか!

リーマン・ブラザーズの破産関連手数料は最終的には計14億ドルに上る可能性があると、この記事は予測しています。GMでも、手数料は12億ドルに上るという予測があるとか。

それだけの手数料の請求書を書くには、大変な時間がかかるだろうと思ったら、この記事は、そのことにも触れていました。記事の著者が破産裁判所を取材していた90年代前半に見た書類。そこには、報酬額を「集計するための時間」まで正確に計測され、請求書の「作成料金」が記載されていました。その金額は、1万ドル以上だったそうです。

請求書の作成料金まで請求する! これが、アメリカの弁護士事務所、会計士事務所の現実なのですね。

ひとつの企業が破綻し、関係者が悲嘆にくれるとき、その背後に、利益を上げる人たちがいる。これが、アメリカ。『ニューズウィーク』は、その現実をさりげなく教えてくれます。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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