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なぜ人手不足なのに賃金が下がるのか
これまで日本の自然失業率は3.5~4%といわれていたので、3.4%という水準はかなり低い。これは循環的要因に加えて、構造的な要因に変化が起こったためと考えられる。5月の日銀の展望レポートでも、構造失業率(自然失業率)を3~3.5%と推定しているので、失業率はまだ下がる余地がある。
自然失業率が下がった第一の原因は、労働力人口(15~64歳)の減少である。特に2010年代に入って団塊の世代が大量に退職したため、労働力人口は2013年には1.4%、14年には1.5%と大幅に減った。失業者は労働力人口と雇用者の差だから、「労働力人口の減少で失業率が下がる」というのは長期的には正しい。
ところが労働力人口は減ったのに、実際に働く雇用者は増えている。今年3月の雇用者数は前年比0.6%増である。その最大の原因は、図のように正社員の比率が下がったことだ。正社員の数は好不況にかかわらず減っているが、その代わり非正社員(主として主婦のパート)が増えたために雇用者が増えたのだ。
つまり雇用が改善した最大の原因は、非正社員の増加による自然失業率の低下だと考えられる。これは労働市場が流動化したということだから、雇用が増えても実質賃金は上がらない。自然失業率は労働需要と供給の一致する均衡水準なので、失業率がその水準に達するまで平均賃金は下がるのだ。
失業率が下がったのはいいことだが、それはアベノミクスのおかげではなく、こうした労働市場の構造的な変化によるものだ。非正社員の比率は37.6%まで上がり、正社員との賃金格差が拡大している。これを雇用規制の強化で止めることはできない。規制を強化した民主党政権のもとでも、正社員は一貫して減っている。
国会でも労働者派遣法の審議が始まったが、いまだに民主党などの野党は「規制強化で正社員を増やす」という発想で派遣労働の規制緩和に反対している。それは政府がこういう労働市場の変化を無視して「アベノミクスで賃上げを起こす」というのと同じぐらい滑稽な話である。
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