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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「総合こども園」で待機児童は解消できるのか
政府は2日、少子化社会対策会議を開いて今国会に提出する子育て支援改革法案の骨子を決めた。それによれば、幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園」を2015年度をめどに創設し、全国の幼稚園と保育所をこれに移行する予定だ。今回の法案は「待機児童を解消する」とうたっているが、これで問題は解決するのだろうか?
幼稚園と保育所がそれぞれ文部科学省と厚生労働省に管轄され、ばらばらの制度で運営されている現状については、かねてから批判が強い。特に保育所については、申し込んでも入れない待機児童が全国で5万人近くおり、潜在的には80万人の超過需要があるともいわれる。今回の法案では、これに対応するため小規模な保育室や「保育ママ」にも公費を投入し、株式会社や非営利組織(NPO)にも参入を認め、保育の定員拡大を目指すという。
しかしこども園は全面的に規制され、保護者は市町村に希望するこども園を申請する。保育料金は保護者の所得に応じて決まり、現在の保育所と同じだ。幼稚園はこども園に一体化しなくてもよいとされているので、今回の措置は実質的には保育所の看板をを「総合こども園」に掛け替えるだけである。
ここに至るまでには、「幼保一体化」をめぐる15年にわたる縄張り争いがある。文科省は幼稚園に、厚労省は保育所に一体化するよう主張しているため、いつまでたっても改革が進まないのだ。幼稚園は学校などと同じく保護者との自由契約でサービスを行なっているが、保育所は強く規制されているため、一体化すると幼稚園は経営の自由を奪われる。保育所の料金は役所が決め、試験や面接で利用者を選ぶ権利も失なうため、幼稚園は一体化に強く反対してきた。
では幼稚園に一体化すればいいようなものだが、これには保育所が強く反対してきた。現在の保育所は、国と県と市町村の三重の補助金で手厚く保護され、運営費の8割以上は補助金である。保育所の園長の経営手腕は、複雑な補助金のしくみを熟知して最大の補助金を取ってくることだといわれる。この補助金を幼稚園と同じ水準にしたら、ほとんどの保育所の経営は立ちゆかなくなるだろう。
待機児童が発生する原因は明らかである。供給不足が慢性的に続くのは、価格が統制される計画経済に特有の現象だ。保育所の料金が補助金によって異常に低く設定されているため、需要と供給が価格で調整できず、社会主義国でパンが不足したのと同じ現象が起こるのだ。自由経済で運営されている幼稚園には、待機児童は発生していない。だから保育所を幼稚園と同じように自由化すれば新規参入が増えて、待機児童も解消されるだろう。
ところが今回の改革でも既存の規制や補助金はまるごと温存され、市町村が「需給調整」を行なうことになった。保育所の既得権を守るため、新規の認可がきびしく制限されているからだ。幼稚園の多くはこども園にならないと予想されるので、ゼロ歳児などの幼児教育については計画経済しか選択の余地がない。これでは待機児童が減る効果は、まったく期待できない。
こうした状況を打開する制度として、OECD(経済協力開発機構)は保育バウチャーを提案している。これは幼稚園と保育所の区別なく、すべての幼児教育に対する補助金をバウチャー(金券)として保護者に支給し、どの幼稚園(保育所)に入るかは親が決める制度だ。社会が高齢化する中で幼児教育は重要であり、大学より手厚い補助金を出してもよいが、それを効率的に使う必要がある。問題は名称を統一することではなく、子供にとって何が大事かを考えることである。
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