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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
市民運動の原点に戻った菅首相は「原発解散」を仕掛けるのか
菅首相のポストへの異常な執念が、政局を混乱させている。民主党の執行部と野党が合意した「50日延長」を首相の一存で蹴飛ばし、70日延長に持ち込んだ。しかも「次の首相のもとで3次補正を行なう」という合意事項も削除したため、辞めるかどうかもわからない。ちょっと前までは困惑していた永田町や霞ヶ関の人々も、今では「殿ご乱心」に唖然としている。
先日も古賀茂明氏(経済産業省)に、この点について質問すると「首相が何のために粘っているのか、誰もわからない」という。表向きは「再生可能エネルギー法」(再生エネ法)の成立を見届けるため、ということになっているが、これを額面どおり信じる人はいない。今まで菅氏がエネルギー問題について発言したことはほとんどないからだ。
ただ反原発の勉強会に菅首相が飛び入りして「私の顔が見たくなかったら再生エネ法を通せ!」などと張り切っているのをみると、彼は「市民運動の原点に帰ったのではないか」という古賀氏の見立ては当たっているような気がする。菅氏は党内でも孤立しており、リーダーシップをまったく発揮できないが、反原発の市民運動には彼の姿勢は高く評価されているからだ。
菅氏は、学生時代に政治運動に身を投じて以来、ずっと「反権力」の立場で生活してきた。彼の所属した社会民主連合は、社会主義勢力の中でも少数派で、何をいっても社会に影響をもたなかった。それがいろいろな偶然が重なって、彼の憎んでいた国家権力を動かす最高権力者の立場になってしまった。今まで反対していた国家権力を動かす側に立ったとき、彼は敵を見失い、何をすべきかわからなくなったのではないか。
そこで出てきたのが、首相が「脱原発」を争点にして衆議院の解散を仕掛けるのではないかという見方だ。小泉元首相が2005年に「郵政解散」を決行したときは、政権が崩壊するのではないかと思われたが、結果的には自民党が圧勝した。同じように、菅首相が8月6日の原爆の日に「反核」を掲げて解散・総選挙を仕掛ければ、世論の支持を得るとともに、彼のリーダーシップを評価する票が集まって圧勝するのではないか、という観測だ。
首相を強く支援するのは、ソフトバンクの孫正義社長などの「自然エネルギー」派だ。特に孫氏の潤沢な資金は、菅氏にとって魅力だろう。ソフトバンクが計画する太陽光発電所が事業として成立するには、その電力を(原発の4倍以上の高値で)電力会社が買い取ることを義務づける再生エネ法が不可欠だ。菅氏がソフトバンクのために法案を成立させれば、次の選挙で落選してもソフトバンクに迎えられるだろう(ソフトバンクの社長室長は民主党の元議員)。これほどわかりやすい官民癒着も今どき珍しい。
しかし当コラムでも指摘してきたように、再生可能エネルギーに補助金を出しても原発を減らすことはできない。世論調査では、「原発を減らすべき」という意見と「現状維持」は半々だ。特に夏場になって電力不足が深刻化すると、原発の代わりに「自然エネルギー」をという菅首相の主張が多くの有権者に理解されるとは思えない。
実は郵政解散にも、実質的な意味はなかった。郵政民営化の最大の目的である「出口」の財政投融資の廃止は1990年代に実現していたので、「入口」の郵便局を民営化することには大した意味はなかったのだ。しかし「民でできることを官がやるべきではない」という小泉氏のメッセージは明確で、時代を変えるパワーがあった。
それに対して、菅氏に代表される団塊の世代は、社会主義の幻想をいつまでも追い続け、民主党は政権についてからも子ども手当のようなバラマキ福祉を変えず、財政赤字を膨張させてきた。こうした民主党政権の実績をみると、むしろ「原発解散」で民主党が惨敗し、自公政権に戻ったほうが今よりましだろう。
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