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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
年金の「運用3号」騒動の原因は専業主婦の年金ただ乗り
専業主婦の年金をめぐって、国会が紛糾している。サラリーマンの妻は、年金保険料を払わなくても国民年金を受給できる国民年金の第3号被保険者だが、夫が退職や失業などで厚生年金や共済年金を脱退したときは年金受給資格を失う。この場合は国民保険料を払って第1号被保険者になる必要があるが、それを忘れて受給資格のない人が100万人以上いることが判明した。
そこで昨年3月、こうした主婦が無年金になることを防ぐため、厚生労働省は過去2年分の保険料をさかのぼって払えば受給資格を与える運用3号の創設を決め、昨年12月に実施した。しかしこれでは「まじめに保険料を払った人が損をする」という批判が出てきた。特にこの特例措置が法改正ではなく「課長通知」という法的根拠のない文書によって行われたことが、「国会の承認なしに予算の支出を決める違法行為だ」と問題になっている。
今のところ責任の所在ははっきりしないが、運用3号を決めたのは長妻昭厚労相(当時)だったといわれ、本人も関与を否定していない。ところが昨年の内閣改造で長妻氏に代わって厚労相になった細川律夫氏が引き継ぎを受けないまま課長名で通知され、これを当時の政務官が見逃したらしい。国会で野党の追及を受けて、政府は運用3号を法改正で追認することにしたが、これは不公平を制度化するものだ。
混乱の根本原因は、第3号被保険者という奇妙な制度にある。世界的に見ても、配偶者の年金保険料を軽減する制度はあるが、サラリーマンの妻だけに保険料を免除する制度はない。自営業者の妻は国民保険料を払わなければならないのに、なぜ会社員と公務員だけが優遇されるのか。また支給対象は年収130万円未満に限られるため、専業主婦やパートタイマーが優遇され、フルタイムで働く女性が不利になるなど、不公平な制度だという批判が強い。
もともと専業主婦には年金加入の義務がなかったが、夫の退職や離婚で無年金になるケースが多いため、1986年に「女性の年金権を確立する」という理由で第3号被保険者が創設された。このとき厚生年金と共済年金の原資には余裕があったため、政治的配慮で保険料を払わなくても受給資格を与えることにしたのが混乱の始まりである。
年金会計が逼迫してからは、第3号被保険者をやめるべきだという声は何度も出たが、1000万人以上に与えた既得権を剥奪することはきわめてむずかしい。保険料を払わずに年金を受け取る専業主婦の「ただ乗り」の総額は年間8兆円にのぼり、年金会計が赤字になる大きな原因だ。これは将来、一般会計から補填され、すべての納税者の負担になる。
厚生年金と共済年金だけに2人分の支給を認めたのは、国民年金に比べて原資の潤沢な企業や官庁に専業主婦の年金を負担させるねらいがあったのだろう。「企業戦士」が会社のために働くのを妻が「銃後」でバックアップするのだから、専業主婦の生活費は会社が負担しろという考え方は、年収103万円以下の主婦を優遇する配偶者特別控除とも共通している。
このように国が行うべき社会保障の負担を企業に押しつける「日本型福祉システム」は、高度成長期のように原資がどんどん拡大している時期には見かけ上の「高福祉・低負担」を実現した。しかし今のように財政危機になり、民間企業の経営も苦しくなると、そのツケは将来世代の負担増となってはね返る。
日本の労働人口が減り始めた今、女性を労働者として活用することは緊急の課題である。主婦を夫のオマケと位置づけ、130万円以上かせぐと損する第3号被保険者制度は、女性の就労意欲を低下させている。男女の雇用機会均等を制度化したのに、年金で女性の労働を阻害するのは筋が通らない。今回の騒動を機に第3号被保険者制度を廃止し、社会保障も男女平等にすべきである。
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