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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
春闘という茶番はやめ、労働市場を改革せよ
「春闘」はもう死語になったと思っていたが、まだ健在のようだ。1月19日、日本経団連の米倉弘昌会長と連合の古賀伸明会長が会談して春闘の交渉がスタートしたが、今ひとつ盛り上がらない。連合は「一時金を含めた給与総額の1%引き上げ」を要求しているが、傘下の組合には賃上げどころか雇用を守るので精一杯のところが多く、足並みはそろわない。
かつて春闘といえば国民的な大イベントで、3月には国鉄や私鉄のストライキで国民生活にも大きな影響があった。しかし今ではストライキもなくなり、賃上げもバラバラで、春闘は空洞化している。そもそも連合の組織率は全労働者の12%で、大企業の「正社員クラブ」といわれている。古賀会長は「賃上げで消費を拡大すれば経済も成長する」とぶち上げたが、自動車総連も電機連合もベースアップ要求は見送った。トヨタでさえ賃上げしない状況では、春闘はもう茶番でしかない。
大卒の就職内定率が7割以下と史上最悪の状況で、大企業の正社員だけ賃上げしろという連合の要求は、世間がみても通らない。円高もあいまって、日本の賃金は国際的にみて高く、雇用の空洞化が止まらない。経済産業省によると、製造業の国内雇用者数は1994年から2008年までに420万人以上も減少した。ところが企業は中高年の雇用を守るために新卒採用を絞り、正社員を減らして非正社員にするため、若者の雇用だけが不安定化する。
賃金が労働生産性に比べて高いという問題に対する答えは、論理的には二つしかない。労働生産性を上げるか賃金を下げるかだ。前者についていえば、日本の労働生産性上昇率は、この20年間ずっと主要国で最低であり、特に小売や外食などのサービス業の労働生産性はアメリカの半分程度である。この原因は、日本の労働者が怠けているからではない。生産性の低い古い企業が延命され、新しい企業に労働力が移動しないからだ。
もう一つは、労働生産性を超える高賃金を得ている中高年社員の賃金を下げることだ。国際競争にさらされている製造業では、50代以降の賃金はかなりフラット化したが、銀行や通信・放送などの規制業種では、依然として年功賃金が続いている。これを改めるには、こうした古い業界から新しい企業に労働者が移動したり起業したりすることが必要だが、硬直的な労働市場がそれを阻んでいる。
この点で、春闘より注目されるのは日本航空だ。労使トップ会談が行われた19日、日航を解雇されたパイロットや客室乗務員ら146人が、整理解雇は無効だとして地位確認や賃金支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。整理解雇については解雇回避の努力などを企業に求める「整理解雇の4要件」と呼ばれる判例があるが、これが経営破綻した企業にも適用されるのかが注目される。
このように労働者の「出口」が法律でふさがれているため、企業は「入口」で新卒採用に慎重にならざるをえない。もちろん解雇された労働者にとっては死活問題だから、彼らが訴訟を起こすのは当然だが、このように厳重な解雇制限によって採用されない若者の雇用喪失や、日本企業の国際競争力が失われる問題とどちらを重くみるのか、裁判所のバランス感覚が問われる。
グローバル化の中で日本経済が新興国からの賃下げ圧力を受け続け、その負担を若者だけにしわ寄せする不公平で非効率な雇用慣行が、日本の長期低迷をもたらしている。これを改革しないで「賃上げでデフレが解消する」などという連合の話は論外だ。他方で賃金の抑制だけを求めて雇用慣行を改めない経営者にも責任がある。守るべきなのは中高年の正社員の既得権ではなく労働者全体の雇用であり、日本経済の活力である。春闘などという茶番はもうやめ、労働市場の改革に労使で取り組むときだ。
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