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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
租税特別措置をなくせば法人税率は25%に下げられる
法人税をめぐって、政府と財界の攻防が激化している。政府の税制調査会は、法人税を5%ポイント引き下げる案を軸に検討しているが、これによって税収が1.5兆円ほど減るため、財務省が難色を示している。経済産業省は、租税特別措置(租特)の一部を見直すことで5000億円程度の財源を捻出する案を出しているが、日本経団連の米倉弘昌会長は「企業が払う税金が減らないと意味がない。租特をなくすのなら、法人税減税はいらない」と反発している。
これを「均衡財政にこだわる財務省と経済活性化のために闘う経産省・財界」の対立のようにいうメディアもあるが、これは間違いである。それは財界が、なぜ租特の見直しに強硬に反対するのかを考えればわかる。租特は国と地方合わせて648種類もあり、免税による減収額は2009年度で5.9兆円。法人税収は国と地方あわせて9.7兆円だ。租特の対象には住宅ローンや配当所得などもあるが、大部分は法人税だから、税額の30%以上も免除しているわけだ。
租特の最大の恩恵にあずかっているのは、政府とつながりの深い(日本経団連のメンバーである)重厚長大産業だ。今回の争点になったナフサの免税措置だけで3.7兆円以上にのぼるが、この免税は石油化学などの製造業だけを優遇するものだ。法人税の実効税率は40.7%だが、財界系の大企業にはこうした減免が多いため実効税率は30%以下だから、彼らにとっては税率より租特のほうがはるかに大事なのだ。
日本の法人税の最大の問題は、税率よりもこのような課税ベースの狭さと歪みである。租特だけでなく、「クロヨン」と呼ばれるように自営業者の所得の捕捉率が低いため、全法人の70%以上が赤字法人で税金を納めていない。民主党も昨年の総選挙のマニフェストで「租特の3割削減」を打ち出したが、今年度予算では業界の抵抗でまったく実現しなかった。
日本の税務職員は10万人あたり43人と先進国で最低レベルで、地下経済の規模は20兆円と推定されている。税務職員を増やして地下経済の半分でも捕捉すれば、今の法人税収と同じ税収が上がる。消費税にインボイスを義務づけて「益税」をなくせば、5000億円以上の税収が上がるばかりでなく、捕捉率も上げることができる。
仮に今の税収を維持するとしても、租特をすべて廃止すれば課税ベースは1.6倍になるので、法人税率は4割下げて25%にすることができる。税収は同じでも、政治家や官僚の裁量をなくし、財界系の古い企業とベンチャー企業や外資系企業との公平性が保たれる。
法人税率の引き下げは、抜本的な税制改革への第一歩にすぎない。1980年代にアメリカのレーガン政権で行われた税制改正では、税率を簡素化するとともに企業へのインセンティブ(租税特別措置)が原則として廃止された。これによって税制が透明になり、インセンティブを求めるロビー活動が減って政治家と企業の癒着も減った。
政府が経済成長率を引き上げるためにできることはほとんどないが、経済成長のじゃまになっている要因を取り除くことはできる。日本の複雑な税制は、そのからくりを利用して節税できる既存の企業に有利になる一方、特別措置の恩恵にあずかれないサラリーマンや新しい企業に不利になっている。これをシンプルでわかりやすい税制にすることは、アジア諸国との租税競争の中で、日本が企業を引き留めるためにも重要である。
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