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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
電子書籍端末「ガラパゴス」は絶滅するか進化するか
シャープの電子書籍サービス「ガラパゴス」が話題を呼んでいる。何より人々を驚かせたのは、その大胆なネーミングだ。ガラパゴスというのは、ダーウィンが進化論の発想を得た島の名前から来たもので、世界から孤立した環境で開発され、高機能だが世界に売れない日本の携帯電話は「ガラケー」(ガラパゴス携帯)として軽蔑されてきた。それをサービスと端末の正式名称にするのは、ちょっとしたブラックユーモアである。
ただシャープは大まじめで、岡田圭子オンリーワン商品・デザイン本部長は、ガラパゴスを「変化に敏感に対応する進化の象徴としてとらえている」という。「世界市場をめざす」というが、その規格はXMDFというシャープの独自規格で、海外に市場があるとは思えない。縦書きもルビも、日本以外の国では意味がないからだ。基本的には、国内向けのサービスと考えたほうがいいだろう。
シャープが独自規格でコンテンツから端末までほぼ一元的に支配する垂直統合型になったことも「閉鎖的」だと評判が悪いが、ハード/ソフト融合型のビジネスの初期には、リスクを取って事業を起こす中核企業がないと何も起こらない。役所や業界が「協議会」や「懇談会」をつくっても、端末がないとコンテンツが出ないが、コンテンツがないと端末が売れないという「鶏と卵」問題が発生するからだ。
電子書籍ビジネスが立ち上がったのも、アマゾンがKindleというブランドで販売から端末まで手がけたからだ。アップルも、iBookStoreからiPadまで垂直統合している。アマゾンのフォーマットはKindle以外の端末では読めないし、アップルの電子書籍はフォーマットこそEPUBというオープン標準だが、DRM(デジタル権利管理)がかかっていてiPhone/iPad以外の端末では読めない。どっちも、いまだに日本語をサポートするかどうかもわからない英語ローカルのサービスである。
つまりアマゾンもアップルも「ガラパゴス」なのだ。ただ英語の読める人は全世界で14億人いるのに対して、日本語は1.2億人。「大陸」と「島」の大きさの違いがコストにきいてくる。携帯端末のコストの大部分は半導体なので固定費用が大きく、市場のサイズが1/10だと、単純に計算して1台あたりのコストは10倍だから、世界市場で売れている端末と同じ価格で売ると利益が出ない。シャープは「100万台をめざす」というが、年間4000万台以上も生産されるiPhoneとは勝負にならない。これは「ガラケー」メーカーが淘汰されるのと同じ構造である。
それでもガラパゴスが、国内市場を独占できるならやっていけるだろうが、実は日本の市場はそれほど「ガラパゴス的」ではない。iPhoneやソニーエリクソンのXperiaなどの外国製スマートフォンが増え、今年の第一4半期では日本で売れた携帯端末の約20%が海外製と推定される。かつて日本製の自動車や家電が欧米諸国に進出したのと逆の現象が起こっているのだ。
ガラパゴス諸島で変わった生物が生き残ったのは、大陸と違って外来種があまり入ってこなかったからだ。そのためこうした生物の生命力は弱く、今では多くが絶滅危惧種になっている。つまりガラパゴスは「変化に敏感に対応する進化」ではなく、「変化の圧力が弱いために生き残った特殊な進化」なのだ。そのひ弱な種が、アマゾンやアップルやグーグルが日本語に対応してきたとき、こうした強力な「外来種」との競争に生き残れるかどうかはわからない。
しかしこれはシャープにとってもチャンスだ。日本の中だけで「日の丸標準」になっても未来は開けないが、外来種と競争すれば、同じようにグローバル展開せざるをえない。EPUBも来年には縦書きやルビに対応するので、XMDFにこだわる必然性はない。それは率直にいって、シャープのような規模の企業にとってはリスクの大きい賭けだが、このネーミングにみられる思い切りのよさがあれば、オープン標準で勝負すれば意外に大きく進化するかもしれない。
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