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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
硬直化した予算で生まれる「安上がりで役に立たない政府」
7月27日、来年度予算の概算要求基準が閣議決定され、国債費を除く一般歳出を各省一律で前年度比10%削減するというシーリングを決定した。今回の予算の特徴は、その異様な硬直性だ。一般歳出の上限は71兆円だが、高齢化にともなう社会保障費の自然増1.3兆円や農業所得補償などの別枠が多いため、裁量的経費は24兆円しかない。
「元気な日本復活特別枠」に1兆円超を配分するというのがわずかな目玉だが、こういう特別枠は珍しいものではない。自民党政権でも、「IT革命」が騒がれたころには何でも「IT関連」になり、環境が話題になると何でも「エコ」と名づけて予算要求が行われ、結局は各省の比例配分で決まってきた。
民主党政権は昨年の総選挙のマニフェストに「政治主導」をうたい、昨年の予算編成でも各省の出した概算要求を「ゼロベースで査定する」として拒否した。その結果、予算編成が1ヶ月半ずれこみ、霞が関が残業地獄になったあげく、予算は史上最大の92兆円にふくれ上がってしまった。
それにこりたのか、今年は最初から一律のシーリングという財務省主導の予算編成だ。概算要求基準も首相と官房長官と政調会長が決めたというが、要求基準は財務省が作成したものだ。これは自民党時代と同じで、政治の裁量は(よくも悪くも)ほとんどない。自民党時代の経済財政諮問会議のような「骨太の方針」さえない。
こういう結果になった一つの原因は、先週のコラムでも書いたように、民主党が国家戦略局などの官邸主導を立法化できなかったことにあるが、立法化したとしても政治主導の予算編成ができたかどうかは疑わしい。民主党は野党暮らしが長かったおかげで、予算編成の経験をもつ議員がほとんどいないからだ。
予算というのは、政策の根幹である。今年度予算の92兆円というのは、1%動いただけで9200億円、大企業の売り上げが吹っ飛ぶ。ところが金額があまりに大きすぎて実感がわかないためか、政治家が予算にかけるコストは驚くほど少ない。自民党は霞が関を政策シンクタンクとして使っていたため、野党に転落すると徒手空拳だ。民主党も、野党時代には自民党に対抗する政策シンクタンクをつくろうと「プラトン」という勉強会をやっていたが、これも与党になったら解散してしまった。
こうした「安上がりの政府」は、実質的に動かせる予算が小さいことに対応している。日本の政府支出のGDP比は主要国でもっとも小さく、特に裁量的経費は極端に少ない。今年はGDPの5%以下で、それも一律削減ということになると、ほとんど新しい政策を実施する余地はない。このように予算が硬直化しているのは、自民党の政治家が勝手に歳出を増やせないように、かつて大蔵省が法律で「鍵」をかけたためだ。その集大成が、一般会計の2倍以上に及ぶ特別会計である。
しかし、このような「のりしろ」の少ない歳出構造は、予算を削減するのもむずかしい。各省に1割削減を命じると、各省は各局に1割削減を命じ、各局は各課に1割削減を命じる・・・というように比例的に行政サービスが削減され、政策としては何も変わらない。安上がりだが、役に立たない政府になってしまうのだ。
かつて日本経済がたくましく成長していたときは、それでもよかった。各省の横並びで、大蔵省がシーリングで「自動操縦」していればよかったのだ。しかし今は放置していると財政危機は拡大し、経済は疲弊し、世代間の不公平は深刻化する。
ところが臨時国会の焦点は「議員歳費の日割り」だという。それで1億円減らしても、一般会計の92万分の1だ。いま必要なのはこんなケチな話ではなく、政策に金をかけて予算にメリハリをつけることである。議員歳費は今の何倍も出したってかまわない。何しろ議員ひとりが1200億円以上の予算を動かすのだ。むしろ議員歳費も「成果主義」にして、政党交付金の使途を政策経費に限るなど、政策にもっと金をかけるべきである。
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