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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
子ども手当はすべて「現物支給」で
財政が危機に直面する中、2011年度予算で子ども手当5兆円を満額支給するかどうかで、民主党がゆれている。民主党の国民生活研究会は、現金給付は2010年度と同じく月額1万3000円とし、残りは保育所の整備など、教育・子育てに関する「現物支給」にするという案を提言したが、長妻厚生労働相は「全額現金が望ましい」と主張し、まだ結論が出ない。
これは「財源不足で福祉予算をケチった」と受け止められがちだが、保育行政を考え直すいい機会である。以前にも私が「アゴラ」に書いたように、日本の保育所は、国と都道府県と市町村から三重に補助を受け、児童受け入れの優先順位も保育料も所得(納税額)で決まるため、所得を捕捉しにくい自営業者の子供に片寄るなど、問題が多い。
このように社会主義的に運営されているため効率が悪く、地域別に割り当てが決められているため、都市部では人口増に保育所が追いつかない。保育所に申し込んで入れない「待機児童」は全国で2万人以上いるが、潜在的には80万人とも推定されている。このように不足や行列が慢性的に続くのは市場経済ではありえないことで、日本の福祉行政が社会主義で運営されていることを示している。
これを解決する方法としては、イギリスや韓国などで実施されている保育バウチャーを支給すればよい。これは一定の基準を満たす保育所はすべて認可し、公立・私立を問わずその保育料を政府の支給する切符(バウチャー)で払うものだ。これによって保護者は、子供に最適の保育所を選ぶことができ、私立保育所への投資が増え、待機児童が解消されることが期待できる。子ども手当は、全額バウチャーで現物支給することが望ましい。
さらに本質的な問題は、幼稚園と保育所がバラバラに設置され、所管も文部科学省と厚生労働省にわかれて、幼児教育についての体系的な政策がないことである。日本の教育に対する政府支出は小学校以降に片寄っており、幼児期にはきわめて少ない。民主党の子ども手当も、こうした幼児期の福祉支出を他の先進国なみにするというのが理由だが、これは問題を取り違えている。
欧米諸国が幼児教育に力を入れるようになったのは、アメリカで1960年代に行なわれた「ペリー就学前実験」の影響が大きいといわれる。これは貧しい家庭の子供が幼児教育を受けた場合と受けなかった場合の学力や職歴を追跡した調査で、幼児教育を受けたグループのほうがはるかに成績がよかった。その後の同様の研究でも、教育投資の効果は幼児期が最大で、年をとるほど低くなることがわかっている。
こうした調査結果を受けて、OECD諸国では「人的資本への投資の効率化」として幼児教育への政府支出を増やしてきた。それは労働生産性を高めるとともに女性の就労を支援して成長率を高め、貧困を減らして社会保障支出も節約できるからだ。たとえばイギリスでは1997年から10年間に幼児教育への公的支出を倍増し、義務教育を5歳からにした。アメリカでも、オバマ大統領が幼児教育を政府支出の重点にあげている。
こうした中で、日本の子ども手当の無原則ぶりは際立っている。問題は親にいくらばらまくかではなく、幼児をいかに育てるかである。幼児教育は親のための「保育」ではなく、子供のための教育なのだから、保育所は幼稚園に統合して文科省が所管することが合理的だ。これまで日本では、専業主婦が育児を行なうことを前提としてきたため、例外的な働く女性を援助する制度として保育所が設けられてきたが、今後の人口減少時代には、女性が働くことを前提にして「社会で子供を育てる」という発想の転換が必要である。
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