コラム

航空自由化は発着枠オークションで

2009年12月17日(木)15時31分

 航空会社が路線や便数を自由に設定できる「オープンスカイ」協定を締結することで、日米政府が11日に合意した。協定は羽田空港の第4滑走路の供用が開始される来年10月までに実施される予定で、これによって海外の航空会社が日本の国内線にも就航できるようになり、内外を問わない競争で航空運賃が下がることが期待できる。

 航空自由化は、いま問題になっている日本航空(JAL)の経営問題にも関連がある。JALが経営破綻したり全日空に買収されたりして、日本の大手航空会社が1社だけになると独禁法上の問題が生じ、飛行機の飛ばなくなる地方空港が出る、というのが国交省がJALを延命する理由だった。しかし自由化によって海外の格安航空会社(LCC)が国内線に参入し、JALの代わりにLCCが地方空港を発着する可能性もある。

 その場合、ボトルネックになるのは羽田空港の発着枠だ。当面は国際線は日米4便に限定し、深夜早朝に割り当てる予定だが、羽田が「ハブ空港」になるためには、国内・国際ふくめた自由な参入が必要である。その一つの方法として、発着枠に市場メカニズムを導入することが考えられる。枠ごとに入札を行ない、航空会社のオークションによって最高値を出した会社がその枠を購入し、他の航空会社に貸したり転売したりすることも自由とするのだ。

 発着枠の取引は、アメリカでは1980年代からケネディ空港(ニューヨーク)、ナショナル空港(ワシントン)、オヘア空港(シカゴ)などで実施されている。オークションも今年から導入される予定だったが、航空会社の異議申し立てで延期されている。これまでの経験では、市場メカニズムは新規参入を促進する効果はあるが、大手が高値で買い占めるなどの反競争的行動を誘発するリスクもあり、慎重な運用が必要だろう。

 しかし今のように国交省の航空局が裁量的に割り当てる方式では、国内の既存航空会社に片寄った配分が行なわれ、LCCのような海外の中小事業者に割り当てられる可能性はほとんどない。また国別の配分が政治的な交渉の材料となり、声の大きい国の航空会社に多く配分される傾向が強い。前原国交相の提唱する「観光立国」のためには、競争によって航空運賃を下げることが重要だ。市場メカニズムで新規参入を容易にする制度設計は、成長戦略のモデルともなろう。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story