コラム

政権交代の失われた15年

2009年08月27日(木)16時28分

 いよいよ政権交代が近づいてきたが、今週の本誌の特集は「沈みゆく日本」。海外メディアの見方は、一様に冷ややかだ。特に次の首相になると目される民主党の鳩山由紀夫代表が「市場原理主義」や「グローバリズム」を否定する内向きの政策を打ち出していることが、海外の日本ウォッチャーを失望させているようだ。

 1993年に細川政権が誕生したとき、国民は40年近く続いた自民単独政権の時代が終わり、新しい時代が始まると期待した。しかしその期待はわずか9ヶ月で裏切られ、そのあと15年も自民党中心の政権が続いてきた。それは自民党が支持されたからではない。野党が分裂を繰り返し、まともな受け皿がなかったからだ。今回、民主党が圧勝の勢いなのは、その政策が支持されているからではなく、やっとまとまった野党が出てきたからだ。だから民主党の支持率は高いが、細川政権が誕生したときのような熱狂はない。

 おまけに与野党ともに「小泉改革の否定」をかかげ、バラマキ福祉を公約している。たしかに日本経済の現状は悲惨だが、それは小泉改革のせいではない。成長率は1990年代から平均して1%前後だし、非正規労働者が増え始めたのも90年代からだ。これらの原因はバブル崩壊以降の長期不況であり、小泉内閣が発足した2001年から日本経済が悪化したというデータはない。むしろ成長率も株価も、小泉政権の2003年に大底をつけて回復した。

 小泉改革に、自民党の郵政族や道路族が反対したのは当然だ。安倍・福田・麻生と政権たらい回しが続く中で、2005年の郵政選挙で小泉氏がかかげた改革の約束が次第に骨抜きになり、麻生首相に至っては「市場原理主義に決別する」と、実質的に小泉改革を否定する路線で選挙を闘っている。つまり与野党ともに小泉氏を仮想敵として選挙戦を行なっているから、有権者も海外メディアも困惑してしまうのだ。

 本誌の記事も指摘するように、民主党は敵を取り違えている。真の敵は、今年中にGDP(国内総生産)で日本を抜くと予想される中国だ。中国経済は経済危機からいち早く立ち直り、遠からず日本に代わって東アジア経済圏の中心になるだろう。それに対抗して日本経済が生き延びるには、中国と競合する製造業に依存する産業構造を転換し、サービス業を中心にして成長する戦略や、中国をパートナーとする経済外交が必要だ。ところが民主党のマニフェストには当初は成長戦略という言葉さえなく、自民党に指摘されてあわてて書き加える始末だ。

 野党として選挙戦を闘う上では、4年前に惨敗した小泉氏を敵に見立てることはやむをえないのかもしれない。しかし民主党が政権の座についたらそういう行きがかりは捨て、小泉改革の成果を冷静に検証して、必要な改革は継承すべきだ。それは民主党の小沢一郎代表代行が、1993年に政権をとったとき発表した『日本改造計画』とほとんど違わない。鳩山氏も、当時は連立与党の一員として小沢氏とともに改革を志したはずだ。16年前の初志に戻り、日本の失われた歳月を取り戻してほしい。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story