コラム

「民主党300議席」後の世界

2009年07月23日(木)15時48分

 衆議院が解散され、恒例の選挙予測が各週刊誌に出そろった。政権交代を予測しているのは当然だが、驚くのはそろって民主党の圧勝を予想していることだ。主な議席予測をリストアップすると、次のようになる(議員定数は480):


自民党民主党
週刊現代 78332
AERA 169247
週刊文春155 261


 現有議席は自民党304、民主党112だから、自民党はほぼ半減、民主党は倍増以上という点では一致している。最小のAERAの予測でも民主党だけで単独過半数をクリアし、週刊現代の予測に至っては、参議院で否決されても再議決できる2/3を超える。いずれにしても前回の自民党圧勝とは逆の、民主党の地滑り的圧勝になることはほぼ確実だろう。

 とすると気になるのは、圧勝後に何が起きるかということだ。16年前の政権交代のときは、自民党を離党して新党を結成したり野党に鞍替えしたりする議員が相次いだ。今回も自民党はすでに分裂含みなので、惨敗となれば反・麻生グループを中心に大量の離党が出る可能性が高い。

 他方、民主党も潜在的な分裂を党内に抱えている。現在の執行部は小沢一郎代表代行のグループが押えており、新たに大量に当選すると予想される新人議員も「小沢チルドレン」の若手・女性議員が多いので、おそらく小沢氏の影響力は党内で一段と増すだろう。しかし党内の中堅・若手議員には小沢氏の古い政治手法への批判が強い。小沢氏の強引な手法に反発して離党が相次ぎ、解党に至った例としては、90年代の新進党がある。

 今回も、民主党はマニフェストでは極端なバラマキを打ち出しているが、政権交代して実際にやるとなると党内論争が出て、こちらからも「第三極」を志向する動きが出てくる可能性がある。それが自民党の離党組などと合流し、新党を結成するかもしれない。民主党と「第三極」の新党が連立政権を組むという展開もあるのではないか。

 つまり300議席以上の「大民主党」と100議席以下の「ミニ自民党」という55年体制の逆だ。これは安定政権のようでいて、実際には不安定を抱えている。政策の対立軸と政党がねじれているからだ。また90年代のように離合集散が繰り返され、何度か選挙をして、自民党=小沢的な再分配政治に対して「小さな政府」を求める改革派が対立するという(先進国では標準的な)二大政党に収束するには、あと10年近くかかるのではないか。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story