コラム

占拠@中国

2011年10月20日(木)07時00分

「ウォール街占拠騒ぎ」に浮かれているときじゃないだろ、中国。...と思っていたら、先週末から政府寄りメディアの「ざまーみろ、アメリカ!」みたいな報道がぱたりと停まった。

 外国のニュースと言えばまずはとにかくビジュアルから入る、昨今の中国メディア。ウォール街占拠報道も世界中を駆け巡った、ファッショナブルな女性デモ参加者が警察によって地面に押さえつけられているトップ写真で始まった。あんな見事な構図の写真、自分たちは警察の売春宿摘発にくっついて行ってなだれ込むときですら撮れないくせに、外国で起こった衝突のニュースでは必ず大きく取り扱うのが中国政府系メディアだ。売春取締報道でそんな構図の写真を載せて、もし捕まった売春婦が美人でセクシーだったら困るからか?

 最近の、資本主義西洋社会の荒れぶりは資本主義下で生きて来た我々すら困惑するが、だからと言って、「今や世界で一番過激な資本主義社会」と陰口を叩かれている、自称社会主義国のこれまた自称愛国主義者たちが振りまわす「ウォール街革命」「世界大衆民主運動」「資本主義エリート統治に終わりを告げ、エリート民主、大衆政治を!」「富をわずか1%の、いやそれ以下の超少数エリートたちだけが握るような状況を許してはならない」(以上、すべて左派系知識人らが署名した声明「アメリカ人民による偉大な『ウォール街革命』を支持する」より)などという言葉に踊る気にならない。まったく、わずか400人の富豪が国内預貯金総額の約10%を握る国(今年9月の「フォーブス」アジア版統計より)が何をか言わんや、である。

 だが、政府系メディアにはここでまたぞろ、中国得意の二者択一型思考が出て来た。「アメリカか中国か」である。その裏にあるのはもちろん、長年この国で大手をふるってきた「自由社会か社会主義か」「資本主義か共産主義か」、簡単に言えば「西か東か」。

 しかし、今やネットで情報を収集するのが習慣になった人々は、すでに設問者が先に答を準備している二者択一型以外にも選択があることを十分承知している。こういった選択合戦や論争に加わることにすら嫌悪感を覚えている人も多く、ツイッターや国産マイクロブログ「微博」を眺めても、「○か×か」より「これはどうやって運営されて、どこへ向かっていくのだろうか」といった「まだ見えてこないが可能性のある選択」を期待している。

 もちろん、世界各地に飛び火した「占拠」騒ぎは中国では起こっていない。だが、最近一部サービス費用の値上げを宣言した、中国随一のネットショッピングサイト「淘宝」で、一部人気店に大量買い込みが入ったかと思うと同時に大量キャンセルされるなど明らかに集団による嫌がらせを受け、ほぼアクセス不能になるなどの「事件」が起きた。人々がわずかながらも自由を楽しめるネットショッピングの世界において、超有名富豪経営者が一方的に持ち込んだ「理不尽な費用徴収規約」に向けた、市民ユーザーたちの抗議だった。人々はここで「淘宝を占拠した」と呼ばれた。

 また、今月に入って多くの経済関連サイトや雑誌が報道をするようになった、浙江省温州市の民間融資チェーンの破たん騒ぎでは、法的には非合法なはずの民間融資に国家機関や国有銀行、国営企業などが中央政府から優先的に配分された資金をつぎ込んで利ザヤを得ている事実が次々と暴露されつつある。そして中央政府も、このまま民間融資チェーンが完全破たんすれば国の金融経済体制に大きな影響を与えることにやっと気づき、あわててその対策を講じめ始めた。ここで政府が昨年来、手を変え品を変え展開してきた金融引き締め策が、「非合法」(だが、全国3兆元市場と呼ばれている)な民間融資業者に「占拠」されてしまったわけである。

「ウォール街『占拠』行動は、現代金融に対する、『金融は巫術ではない。金融が実体経済を破壊することがあってはならない。金融が貧しい者から財貨を奪って富む者に与えたり、無辜な庶民を略奪してはならない』という、人々の反省を示すものだ」。これは、ある匿名経済コラムニストによる中国語掲示板サイト「天涯網」への書き込みだ。

 だとすると、そろそろ今の中国も反省に入った方がよろしいのではないかという気がするのですが。

プロフィール

ふるまい よしこ

フリーランスライター。北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港中文大学で広東語を学んだ後、雑誌編集者を経てライターに。現在は北京を中心に、主に文化、芸術、庶民生活、日常のニュース、インターネット事情などから、日本メディアが伝えない中国社会事情をリポート、解説している。著書に『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)。
個人サイト:http://wanzee.seesaa.net
ツイッター:@furumai_yoshiko

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story