アステイオン

雑誌

言葉が隣り合い、対話を続ける場として──「雑誌の未来」はどこにある

2024年10月16日(水)11時00分
堀 由貴子(月刊「世界」編集長)

編みかえの方向性

ゆったりした議論の構えにもかかわらず、アクチュアリティがある点も、『アステイオン』の特徴だと思う。

「アカデミック・ジャーナリズム」や「中華の拡散、中華の進化」特集なども手に取りたくなるテーマで、いずれも長尺の論考、また、発話者の個性がくっきり浮かび上がる座談会記事がおさめられている。

雑誌の活気、おおらかさをめぐって、100号に寄せられた言葉には、現場に刺さる意見が少なくない。

「本当の意味でライブ感をもった雑誌だけが、孤独な書き手どうしをつなぐ実り豊かな連帯の場となり得る」(福嶋亮大さん)

「敢えて言えば、無謬であることを目指さずに、異論や暴論なども意識的に取り組んでいく。正しい内容しか掲載しないメディアは、かえって知性が硬直化して、いつしか間違ったことばかり掲載するメディアになってしまう」(三辺直太さん)

SNS上で日々膨大な意見を目にする一方、そこで議論が成立した、深まった、と感じる場面は多くない。

さまざまな言葉が集まり、隣りあう場として。対談・座談会など、時に対立点を明確にしながらも対話を続ける場として。雑誌の特性をもっと磨いていきたい。

「世界」は戦争をとめられなかった、その取り返しのつかない過ちに対する悔恨から生まれた雑誌だ。

来年、戦後80年を迎える。戦争にあらがう思想を自らのものとしてどうやって育み、受け継いでいくか。分極化する世界のなかで、平和のための言葉をどうやって外にひらき、人々と共有していくか。

そんな模索のなかで、論壇とは、多種多様な論客による集合的な「ネガティブ・ケイパビリティ」の場――という三牧聖子さんの再定義に、目から鱗が落ちる思いだった。

ときに明快な答えの見えない、曖昧な状況に耐える。その力をひとりで獲得し、発揮するのは難しい。だから論壇がある。論文の締めくくりでさらりと示された視点は、閉じられたサークルを編みかえる可能性を示唆していると思う。


堀 由貴子(Yukiko Hori)
1985年大阪府生まれ。一橋大学社会学部卒業。2009年に岩波書店入社。「世界」編集部、単行本編集部を経て現職。


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 『アステイオン』100号
  特集:「言論のアリーナ」としての試み──創刊100号を迎えて
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス


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