サミット・ワン・ヴァンダービルト 筆者撮影
2024年3月、ニューヨークの新しい人気スポットをいくつか見て回る機会があった。ひとつは「サミット・ワン・ヴァンダービルト」という名の展望台だ。
2020年に開業したばかりの超高層ビル、ワン・ヴァンダービルトの91〜93階から、マンハッタンのスカイラインを一望できる。ただし床や天井が全面鏡張りになっているため、何重にも増殖して映し出される人々と風景のなかで、位置感覚が失われていく不思議な混乱を味わうことになる。
一方、2022年にマンハッタンに誕生した「ライズ・ニューヨーク」は、近年流行している「イマーシヴ体験」を売りにした、ミュージアムと没入型ライドが融合した施設だ。
最大の呼び物であるフライト・シミュレーション・ライドでは、マンハッタンの高層ビル群の隙間を実際に飛行しているようなスリルが、本物の風や霧や匂いとともに押し寄せてくる。
かつて建築家レム・コールハースは、ニューヨークの摩天楼が、ブルックリン南端に作られた遊園地コニーアイランドの「空想世界のテクノロジー」から生成されていったという、ユニークな都市の歴史を描き出してみせた。
現在のマンハッタンの超高層ビルは、まさしく遊園地を思わせるアトラクションとして活用されている。都市そのものが巨大なテーマパークになっているといってもよいだろう。
筆者は『遊園地と都市文学──アメリカン・メトロポリスのモダニティ』(小鳥遊書房、2024年)という本のなかで、19世紀末から20世紀初頭のアメリカ合衆国の都市がすでにして、アトラクションかつスペクタクルと化していた状況を考察した。
約100年前のアメリカには、およそ2000もの遊園地が作られ、映画とともに大衆文化の中心に位置しただけでなく、都市そのものの象徴ともなっていたのである。
19世紀末のアメリカは、大量の移民が過密な都市人口を形成するとともに、摩天楼や電灯や路面電車など新たな構造物が次々と誕生した時代でもあった。
都市空間は、多彩な見世物や照明装置や遊戯機械に人々が魅了される遊園地と同じような「仕掛け」によって駆動する場所に変わっていった。現在のニューヨークの「アトラクション化」は、ある意味で100年以上前のアメリカに生じた変化と地続きだと考えられる。
当時の文化状況は、詩や小説の中にはっきり刻み込まれている。たとえば本書では、1925年に発表されたF・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』という小説が、ニューヨークを遊園地に似た空間として表現している点に着目している。
vol.101
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