白人たちの中には、日本人移民が安い賃金で働くことで、自分たちの賃金が下がることを嫌がり、また日本人移民が子沢山であることで、白人社会がアジア化することを恐れる人々がいた。
彼/女らは立法者に働きかけ、1924年にアジア人移民排斥法を作ってしまう。日系アメリカ人は数的に少なくなり、結婚適齢期を迎えた日系アメリカ人は、他の人種グループに結婚相手を求めざるをえなくなり、日系アメリカ人の多人種化が進んでいった。1967年に廃止された異人種間結婚禁止法も、多人種化に拍車をかけた。
日系アメリカ人の多人種化のもう1つの要因として、戦争花嫁の存在が挙げられる。
第二次世界大戦に敗戦した日本は、アメリカ軍を中心とする進駐軍に占領された。この占領中にアメリカ軍兵士と結婚した日本人女性を戦争花嫁という。戦争花嫁の多くが異人種間結婚をしており、複数の人種ルーツを持つ日系アメリカ人が生まれていった。
日系アメリカ人の多人種化は、このように19世紀末からアメリカに移民した日本人移民の子どもたちの異人種間結婚や、20世紀中葉以降にアメリカに渡った戦争花嫁の異人種間結婚の結果である。
時代によってその背景は異なるが、それぞれの集団に属する複数の人種ルーツを持つ日系アメリカ人が自分の経験を元に文学を作り出している。
複数の人種ルーツを持つ日系アメリカ人作家は、存在そのものがトランスボーダーの作家群といえる。
なぜならば彼/女たちの多くは人種という境界を越えて生まれ、日本とアメリカという国境を行き来し、一部の作家は日本語と英語という言葉の境界も越えており、多くがそのトランスボーダー性を文学に表現しているからだ。
筆者が知る中でもっとも古い複数の人種ルーツを持つ日系アメリカ人作家にKathleen Tamagawa Eldridge(以後、エルドリッジ)がいる。
彼女は1893年に日本人実業家の父と、アイルランド系アメリカ人の母の間に生まれた。20世紀前後に日米を往復するような豊かな家に生まれ、物質的に何不自由なく育ったものの、日米いずれでも疎外感を味わった。
彼女が1932年に出版したHoly Prayers in A Horse's Ear(Roy Long & Richard Smith)には、20世紀初頭に日本人とアイルランド人のルーツを持つことで、日系人コミュニティにも、白人コミュニティにも属しきれないことの苦悩が書かれている。
居場所のなさという問題は、多くの複数の人種ルーツを持つ日系アメリカ人作家の共通テーマである。
エルドリッジは、白人男性と結婚をして、白人にしか見えない子どもを産んだ後、ようやく自分の人種的不安定さが解消できたとし、白人アイデンティティへの帰属を書いている。
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