タイの抗議者たちは、新しい憲法と君主制の改革を3本の指で示す jaboo2foto-shutterstock
日本で、東南アジアの政治状況について報道されたり、ニュースが伝えられたりすることは、他の地域と比べてしまうとどうしても少ない。次々と新しいできごとが起こる中で、国内の興味関心が相対的に薄い地域の事情は閑却されていくのが常だ。
[編集部注: 2023年3月執筆時点の]発生から2年が経ったミャンマーの軍事クーデター然り、もはやそれよりももっと注目されていない、2020年から続くタイの民主化運動然り。だがそんなふうに流通して消費されていく情報とは関係なく、今日もそれぞれの場所で命を賭して闘っているひとたちがいる。
本稿執筆時点(2023年3月頭)、タイ・バンコクの最高裁判所前では、ふたりの若い民主活動家が、40日以上にわたるハンガーストライキを続けている。「タワン」ことターンタワン・トゥアトゥラーノン(21歳)と、「ベーム」ことオーラワン・プーポン(23歳)だ。
2022年2月、彼女たちふたりと他の活動家は、バンコクの有名デパート前で、通行人に対して「王族の行幸啓の車列は〔交通制限などが必要になるため〕迷惑だと思うか?」というシール式アンケートを実施した。
その上で、警察の制止を無視して、王室の宮殿付近まで活動を拡大した。この行為が刑法112条の王室不敬罪、116条の煽動罪、および368条の、法的権限を持つ人間の命令に逆らうという罪に問われた。逮捕・勾留された彼女たちは、保釈金20万バーツ(およそ80万円)を支払った上で、EMリングと呼ばれるGPS監視装置を装着されて、即日保釈された。
状況が変わったのは、2023年に入ってからだ。1月9日に、刑事裁判所が、ふたりとともに罪に問われている別の活動家バイポーとケット(どちらも20代前半)の保釈を取り消す決定を下す。保釈条件への違反がその理由とされたが、弁護士などは、取り消し決定のプロセスに法的な問題があると指摘した。
1月16日、タワンとベームは刑事裁判所前で、この決定を批判するべく、血に見立てた赤色の液体をみずからの身体に浴びせかけるというパフォーマンスを行なった。彼女たちは、裁判が行われないまま勾留が続く民主活動家たちの保釈を要求した上で、裁判所に自分たちの保釈の取り消しを申し出て、その日の夕方に再度勾留された。
1月18日には、SNSに投稿された動画を通じて、ふたりは「命を賭けて闘う」ことを宣言し、ハンガーストライキを開始する。その要求は以下の3つだ。
第一に、司法制度を改革し、裁判所が市民の人権と表現の自由を守ること。第二に、表現の自由や集会の自由を行使した市民への訴追をしないこと。第三に、すべての政党が、王室不敬罪と煽動罪の廃止によって、市民の権利を保障する政策を提案し、市民の政治参加を推進すること。
彼女たちの行為との因果関係は不明だが、ハンストの開始後、10名を超える活動家が保釈されている。
ふたりは1週間後に、外部の病院に移送された。だが2月24日には、さらに3名の活動家の保釈を要求して、病院での点滴治療などを拒否した上で、最高裁判所前に設置した無菌テントでのハンスト続行を宣言した(追記:3月3日夕方には、ふたりの体調が急激に悪化しているとのことで再度病院に移送され、同11日にはハンストの中止が発表された)。
どうして彼女たちは、ここまでの行為に及んだのか。彼女たちだけではない。
2020年以降、何人もの若者が、警察隊との衝突で重傷を負ったり、勾留中にハンガーストライキを実施したりしている(タワンは、2022年にも、勾留中に37日間のハンストを行なっている)。
もはや民主化運動も、当初のような一枚岩の大きな盛り上がりはなく、彼女たちの過激ともいえる抗議活動には、根本的な主張を同じくするひとたちの中からも、批判的な目が向けられることがある。
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