大村芳樹 著『音楽之枝折』続,普及舎,明20-22. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/854784 (参照 2023-12-13)
「ハモる」という言葉が「ハーモニー」から生まれた音楽用語であることはわかる。では、「ハーモニー」の日本語訳は?
それは「和声」と呼ばれている。和音、つまり同時に鳴り響く音響現象の連結が和声だ。また、その和声を巡る諸理論は西洋で体系化され、「和声学」として確立されている。
【譜例1】の和音は学校の記憶を呼び覚ますトリガーとなっており、この記事の読者の中には、「音痴」とからかわれた辛い思い出があるなど、歌うことが苦手で音楽の授業が嫌いだったかたもいるかもしれない。
しかし、その「正しい音程」で歌えない人が「音痴」と呼ばれたのであれば、そもそも「正しい音程」とは何だったのか?
近代日本の学校教育においては、西洋音楽理論がとりいれられ、それは概ね西洋音楽の音階に基づいている。
明治22(1889)年発行の『音樂之枝折 續編』(大村芳樹著、普及舎)に掲載された【譜例1】「立禮ノ譜」は、日本の学校に通ったことのある人であれば、お馴染みの和音であろう。この和音を「礼」の動きと合わせる習慣は、明治10年代から定着していき、明治20年代には楽譜も発行されている。
これらの和音は、明治時代から現代に至るまで初等中等教育で使用され続けており、学校教育を通して身体化されていった西洋音楽の一例である。
日本の学校教育で最初に用いられた音楽教科書は『小學唱歌集』であった。その初編は明治14(1881)年に文部省から出版された。
今日まで歌い継がれてきた《蝶々》などが掲載されている『小學唱歌集』。全3編から成り、初編は音階練習から始まっている。初編・第2編は単音唱歌のみだが、第3編では複音や3重音の唱歌を修得してハーモニーを奏でる、いわゆる「ハモる」ことが目指された。
明治17(1884)年に出版された第3編の最後には、3つの声部で構成された《招魂祭》が掲載されている(【譜例2】)
vol.101
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