アステイオン

座談会

コロナは「地方」と地域文化に影響を与えた...サントリー地域文化賞選考委員座談会(下)

2023年09月20日(水)10時44分
佐々木幹郎+田中優子+藤森照信+御厨貴(構成:置塩文)

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本座談会は2022年12月6日に行われた。写真はすべて河内彩撮影


「人間に対する驚き」とインスピレーション

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御厨 ところで、佐々木さん、ここで何か詩はできません?

佐々木 今ここで? むちゃ言いなさんな(笑)。

御厨 佐々木さんの詩人としての本性は、地域文化とどのように触れ合っていますか。

佐々木 そういうことならいろんな例があります。地域へ行くと「人間はこんなことをするんだ」という驚きに出会います。例えば妖怪村。

御厨 ああ、あれね。すごく好きだった。徳島の妖怪村(※8)

佐々木 妖怪村では、妖怪が川のほとりにいっぱい展示してあって、それはそれで面白い。けれども、さらに近くの山奥の村でも、空き家になった家の縁側とかいろいろなところに人形をばーっと並べていた。

これも妖怪みたいなものだけれども、こちらは観光目的じゃなく、妖怪村からインスピレーションを与えられた一人のおばあちゃんが趣味でやっているんですね。これは一体何だろうと。

傾斜が35度とかありそうな山道沿いに細い畑があって、滑り落ちたイノシシはそのまま死ぬというような(笑)、ものすごい山奥の風景と、そこに住む人たちと、そこでの楽しみ方、人間が生き抜くための遊び方。そういうものを見ると、ああ、これは面白い詩ができるなという感触がある。


[注]
(7) 2011年特別賞は2つ。
   ①岩手県陸前高田市 全国太鼓フェスティバル│震災復興の起爆剤となる「太鼓の甲子園」
   ②福島県川俣町 コスキン・エン・ハポン│絆を深め、希望を育む中南米音楽の祭典
(8) 2013年 徳島県三好市 四国の秘境 山城・大歩危妖怪村│山里に伝わる妖怪伝説を核にした地域づくり
(9) サントリー文化財団事業 可能性としての「日本」研究会


御厨貴(Takashi Mikuriya)
1951年生まれ。東京大学先端科学技術研究センターフェロー、東京大学名誉教授。東京大学法学部卒業。専門は近代日本政治史、オーラル・ヒストリー。東京大学先端科学技術研究センター教授などを歴任。「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」座長代理。TBS『時事放談』司会者でもあった。著書に『平成風雲録』(文藝春秋)、編著に『天皇退位何が論じられたのか──おことばから大嘗祭まで』(中公選書)、『舞台をまわす、舞台がまわる──山崎正和オーラルヒストリー』(中央公論新社)、『天皇の近代』(千倉書房)など多数。2018年紫綬褒章受章。

田中優子(Yuko Tanaka)
1952年生まれ。法政大学名誉教授。法政大学文学部日本文学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。法政大学社会学部教授、社会学部長などを経て法政大学総長、2021年退任。専門は日本近世文学、江戸文化、アジア比較文化。2005年紫綬褒章受章。著書に『江戸の想像力』(ちくま学芸文庫)、『江戸百夢──近世図像学の楽しみ』(ちくま文庫、サントリー学芸賞)、『遊廓と日本人』(講談社現代新書)など多数。

藤森照信(Terunobu Fujimori)
1946年生まれ。東京大学名誉教授。東京大学建築学専攻博士課程修了。東京大学生産技術研究所教授、工学院大学建築学部教授等を歴任。専門は建築史学。著書に『建築探偵の冒険・東京篇』(筑摩書房、サントリー学芸賞)、『タンポポ・ハウスのできるまで』(朝日新聞社)、『天下無双の建築学入門』(筑摩書房)、『歴史遺産 日本の洋館』(講談社)など多数。

佐々木幹郎(Mikiro Sasaki)
1947年生まれ。詩人。東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文芸非常勤講師を務める。『蜂蜜採り』(書肆山田、高見順賞)、『明日』(思潮社、萩原朔太郎賞)、『鏡の上を走りながら』(思潮社、大岡信賞)、『中原中也』(筑摩書房、サントリー学芸賞)、『アジア海道紀行──海は都市である』(みすず書房、読売文学賞)など著書多数。


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 『アステイオン』98号

  特集:中華の拡散、中華の深化──「中国の夢」の歴史的展望
  公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
  CCCメディアハウス[刊]


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