習氏のアーカイブ館の見学は、文化伝承発展座談会に出席し、演説することとセットだった。習氏は中華文明を「中断されたことのない唯一の文明」と位置づけ、次のように語っている。
中華文明には際だった統一性があり、中華民族は各民族の文化が一つに融合し、たとえ重大な挫折になっても固く結集することを決定づけ、国土は切り離せず、国家は乱れず、民族はばらばらにならず、文明は断たれないとういう共通の信念を決定づけ、国家統一が永遠に中国の核心的利益の核心であることを決定づけ、強固で統一された国家が各民族の運命にかかわることを決定づけている、と。
アステイオン98号の特集「中華の拡散、中華の深化──「中国の夢」の歴史的展望」で、責任編集を担った岡本隆司氏が「中国の夢」について、「長くとれば百年以上も以前から背負い、となえてきた課題であるとともに、現代・現状も解決をみておらず、なればこそ「夢」と表現せざるをえない」と指摘している。
習氏の中華文明に関する演説もさかさまに読めば、中国が抱え続ける課題が見える。
中国という国家や中華文明は、そのパワーの及ぶ範囲で広がったり縮んだりしてきた。習氏の中国は、中華を、その見果てぬ夢を拡散するベクトルにある。
その伸縮に応じて影響を受けてきた日本には、歴史という縦軸に地理的な横軸を加えた「中国と関係を有した国々・地域それぞれの「中華」観・「中国」論」(岡本氏)が必要だ。
この特集では、中華・中国に、ときにとりこまれ、ときに周縁となり、ときに外部として存在した朝鮮半島、琉球、台湾、香港、チベット、新疆、ベトナム、モンゴルを主語にして中国を論じていた。
それによって、「連続性」「統一性」「包摂性」を主張する習氏率いる、現代の中国・中華が語る歴史の欺瞞や矛盾を照射している。
岡本氏のこの問題意識は、西洋の視点で編まれた世界史をユーラシアから捉え直す『世界史序説──アジア史から一望する』(ちくま新書)や、現代中国が生まれる過程を日本、琉球、ベトナム、朝鮮半島、モンゴルなどの視座からとらえた『中国の誕生──東アジアの近代外交と国家形成』(名古屋大学出版会)から一貫する、主語を逆転させる試みだと感じた。
中国と直接のかかわりを持ってきた国や地域は中国をどう見ているのか。自らの歴史にどう位置づけているのか。
vol.100
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