玉城氏は琉球人墓地を訪ねて、那覇から持参した「平御香(ヒラウコー)」と呼ばれる線香とお盆などに祖先に持たせるための紙ウチカビを供えて手を合わせた。いずれも中国由来の沖縄独特の風習である。
中国メディアは琉球王国の時代から沖縄は「中国はじめアジア諸国との平和的な交流で繁栄した」(人民日報傘下の環球時報)という知事の言葉を伝えた。
「琉球回収、沖縄解放」
北京特派員時代に取材した2010年から12年にかけての「官製」反日デモで、そんなスローガンを書いた垂れ幕を見た記憶が甦る。
習氏は、沖縄の人々に親しみをアピールしたのか。それとも、台湾問題をめぐって関係がぎくしゃくする日本政府に対して、沖縄の帰属問題で揺さぶりをかけようとしているのか。
琉球と交流の歴史を持つ福建省は、習氏にとって1985年のアモイ市副市長から始まり、17年も駐在したゆかりの地だ。足を止めても不自然ではない。中国政府自身は沖縄返還後、日本の沖縄の主権に異議は唱えていない。
では、沖縄の人たちの対中意識をみるとどうであろうか。沖縄復帰50年にあたって朝日新聞社などが実施した世論調査(2022年3~4月)によれば、日本にとってより重要な関係として、アメリカをあげた人の比率が77%だったのに対して、中国は7%に過ぎない。
別の世論調査でも、対中感情は本土の日本人以上に悪いという結果もある。仮に、習氏の発言が、米軍基地問題で日本政府の政策に不満を持つ沖縄の人々を取り込もうとするプロパガンダ工作だったとしても、どこまで有効かは未知数だ。
それでも、人民日報1面で報じたこと自体、強い政治的メッセージを放つ。トップに対する忖度ともあいまって、中国の政策当局者、研究者や世論の方向性に大きな影響を与える。
中国は国力の増強につれて、自国民を束ねる道具として利用してきた「五千年」の歴史の効用を国外に対しても臆面なく用いるようになった。
今回の習氏の発言をめぐって日本にざわざわと波紋が広がったように、日本の世論の分断や混乱につながりかねない琉球をめぐる議論は今後、必ず増える。
中国側の意図を、日本社会はどこまで深く読み取れるだろうか。
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