李強首相(右から2番目)と会談した玉城デニー沖縄県知事(左)POOL New-REUTERS
中国で歴史は生々しく今を生きている。
「中国の夢」を掲げて14億人を束ねようとする習近平政権のもと、歴史を背負う「中華」はどう拡散し、深化しているのか。
沖縄の玉城デニー県知事が7月初旬、訪中した。コロナの渡航制限が緩和されて以降、日本から初めての大型経済ミッションの一員として、李強首相など指導部とも面会した。
さらに、琉球王国時代に深い縁があった福建省福州市へと足を延ばした。中国メディアは連日、「玉城丹尼」の動向を報じた。
沖縄県知事の訪中は初めてではない。翁長雄志氏も何度か訪問している。今回いっそう注目されたのは、習近平国家主席が自らの言葉で、「琉球」と中国との深い縁に触れたばかりだったからだ。
習氏は6月初め、「中華文化の遺伝子バンク」(国営新華社通信)とも呼ばれる中国国家版本館の北京本館を訪れた。古代から近代までの出版物の版本1600万冊を収蔵、1万点以上を展示している。天安門広場から数十キロ離れた燕山の麓にある。
中国共産党機関紙人民日報1面(6月4日)によれば、足を止めた習氏に対して、案内係は「重要な政治的な役割を果たしている古書」として、明代16世紀に皇帝が琉球へ派遣した「册封使」が残した記録『使琉球録』を紹介した。
「釣魚島(尖閣諸島の中国名)とその付属諸島が中国の版図に属することを記録している」と説明した。中国は500年近く前の古文書も歴史の檻から出して、現在の外交に動員する。
習氏は島をめぐる問題には直接答えず、こう応じた。
「私は福州(福建省)で働いていたとき、琉球館と琉球墓園があり、琉球との往来の歴史がとても深いと知った。あのころ、『閩(びん)人三十六姓』が琉球へ渡った」
琉球館は、貢ぎ物を明の皇帝に届けるために琉球王国から海を渡ってきた人々が滞在した拠点だ。柔遠駅とも言われた。柔遠という中国語には、遠方からの訪問者を優遇し、朝廷の懐柔政策を示すという意味がある。
習氏の発言は、中国と琉球は「冊封関係」、つまり、中国側から見ると宗主国と従属国の関係にあったことを想起させる。
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