アステイオン

中国

習近平「中華民族の偉大な復興」を理解するための3つの補助線

2023年08月30日(水)11時05分
鈴木絢女(同志社大学法学部教授)
習近平

Frederic Legrand - COMEO-shutterstock


<中国がどのような世界秩序を描き、地域の国々がそれをどう受容・拒否しているのか。既存の国際秩序を改めて問い直す>


習近平の論じる「中華民族の偉大な復興」とは一体なにを意味するのか。「中華」とはいったいどのような世界秩序なのか。『アステイオン』98号の特集論文から、現代東アジア国際関係を理解するための3つの補助線が浮かび上がった。

中華の変容

いくつかの論文で最も強く印象に残ったのは、かつての中華世界の柔軟性である。

朝鮮やベトナムの小中華思想に明らかなように、自分こそが中華だと信じる国が複数あった。チベットを自らの版図とした清朝に対して、チベット人たちは、二国関係を対等なものとして理解した。琉球にみられるように、二重朝貢も一般的に行われていた。中華世界は、国家間関係に関する主観的認識の複数性を許す世界だった。

また、明に朝貢したマラッカ王国のように、隣国からの武力行使を抑止するために中国の威光を使うこともあった。華夷秩序は「周辺国」にとって、朝貢などの儀礼的な関係さえ守っておけば中国から干渉されたり、武力攻撃を受けたりするリスクを避ける仕組みでもあり、中国の優位を公式に認めることに躊躇がなければ、受け入れやすいものだった。

しかし、主権国家システムを受容したあとのアジアでは、そうはいかない。華夷秩序のなかで劣位に甘んじてきた国々、植民地支配を受けた国々は、主権平等の原則によりながら、かつての従属関係からの脱却をめざした。

マレーシアのヒシャムディン・フセイン外務大臣が、中国を「大哥/elder brother」と呼んだ際にマレーシア国内で激しい批判が起きたことは、「周辺国」にとって中華秩序に従うコストが上がったことを示している(※1)。

他方で、香港の「中国化」、台湾に対する度重なる武力を用いた威嚇、チベットや新疆における抑圧的な支配、南シナ海・東シナ海における攻撃的な海洋行動や東南アジア地域機構(ASEAN)に対する中国政府の圧力をみれば、習近平の中華に認識の複数性を許すような柔軟さを見出すことはできない。

今日の中華は、「西洋の衝撃」以前のそれとは全くの別物のようである。習近平の中華の背景には、日本による台湾出兵や琉球併合、日清戦争、欧米による大陸での利権獲得競争など、アヘン戦争以降の中華世界の喪失の歴史への思いが広がっている。

PAGE TOP