アステイオン

中国

習近平「中華民族の偉大な復興」を理解するための3つの補助線

2023年08月30日(水)11時05分
鈴木絢女(同志社大学法学部教授)

世界秩序・国際秩序の併存・相剋

ひょっとすると、現代には複数の世界秩序が併存し、相剋しているのかもしれない。もっとも、このような状態は、特に新しいものではない。

近代以降しばらく、北東アジア諸国は条約交渉や国際法などを「朝貢関係において観念」し、主権国家体系を「部分的に利用」した(※2)。

本特集でも、朝鮮が条約や主権といった概念を取り入れつつも、必要な時には清に相談や仲介、派兵を要請するといった折衷的なアプローチをとったことが述べられている。

ひるがえって、前近代の東南アジアでは、中国や中東との中継貿易で港市国家が繁栄したことから、「支配者たちは、中華秩序やイスラームの秩序を熱心に維持しつつ、それらを包摂できる原理を模索した」(※3)。

こうしたあり方は、現代でも観察できそうである。たとえば、南シナ海問題について極めて抑制的なASEAN共同声明に典型的に示されるように、東南アジア諸国が中国を批判することは稀である。このような自制的行動は、中国への経済的な依存によって説明されることが多い。

しかし、中国ほどではないとしても相当程度の経済的プレゼンスを有し、また、この地域の安全保障で中国よりも大きな役割を果たしているアメリカに対しては、ほとんどの国があけすけな批判を繰り返す。

いくつかの東南アジア諸国は、中国との関係では中華秩序のプレーヤーとなり、アメリカなどそれ以外の国とは主権国家システムの規範の中でゲームをしているのかもしれない。

大国中国との安定的な関係は、それ自体として有益である。しかも、西側先進国に対する不満があれば、中国との安定的な関係は、西側への異議申し立ての梃子となりうる。

アメリカに麻薬撲滅戦争を批判されたフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が「アメリカとの別れ」を宣言し、自らが立ち上げた投資会社が資金洗浄の疑いをかけられたマレーシアのナジブ・ラザク首相が「第二次大戦の戦勝国による国際制度」に異議を唱えるとき、横には中国がピッタリと寄り添っていた。

いずれのリーダーも南シナ海問題で譲歩し、外交や内政の場で中国を讃えることを忘れなかった。

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