アステイオン

中国

習近平「中華民族の偉大な復興」を理解するための3つの補助線

2023年08月30日(水)11時05分
鈴木絢女(同志社大学法学部教授)

他方で、内政不干渉原則への頻繁な言及にも明らかなように、中国は主権国家システムをガッチリと受け入れている。曖昧さを含んでいたかつての支配関係を、主権や領域支配の概念で捉え直そうとする中国の試みが、チベット、台湾、琉球、新疆で疎外や抑圧をもたらしている。

主権国家システムを受け入れた中国が論じる中華は、単に中国の強国化という以外に、どういった含意を持つのだろうか。

文化的・道徳的な正しさをめぐって

秩序のロジックは、単に地理的なものではなく、中央(中国/漢民族)に儒教文化の精髄があるという文化的・道徳的優位によっても支えられていた。

しかし、2010年代以降の香港市民による激しい抗議や、台湾アイデンティティの台頭、チベットや新疆で続く自治要求や抵抗運動は、これらの地域が中国に文化的・道徳的な正しさを見出していないことを示唆している。

その意味で、「今の中国には文化の輝きはなく、経済や軍事というハードパワーによって弱いものを従えることしかできない」という野嶋(「台湾で『中華』は限りなく透明になる」)の指摘には説得力がある。

他方で、倉田(「香港の『中国式現代化』は可能か?」)が論じるように、中国は「西洋化」とは異なる「現代化」の経路を示そうともしている。とりわけ、中国が「西側戦勝国主導の国際秩序」に異を唱えるとき、少なからぬ途上国がこれに賛同することは見逃してはならない。

もっとも、そこで主張されるのは、中国の正しさというよりは、既存の国際秩序を作り上げてきた西側先進国の道徳的欠陥である。 

ウクライナ紛争をめぐる国連総会決議では、ロシアによるウクライナの主権侵害や国際人道法違反を糾弾しようとする西側の決議案に対して、途上国の多くが反対あるいは棄権票を投じた場面があった。

そこで語られたのは、西側諸国による奴隷制、植民地支配、アパルトヘイト、軍事侵攻の歴史であり、かつての加害者が自らの過ちを清算せずに、ロシアの軍事侵攻には制裁を加えようとする「ダブルスタンダード」への憤りだった。

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