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国際政治

習近平は他国首脳に「大国・パートナー」「運命共同体」と言うが、日本にはどれも言わない

2023年07月26日(水)11時05分
白石 隆(熊本県立大学理事長)

一方、新興国、途上国は「運命共同体」構築の相手である。では、「運命共同体」とは何か。新疆、チベットが行き着く先であれば、その構築はきわめて難しいだろう。

中国の行動はここにも見るように、非常にわかりやすい外交的計算と粗雑な歴史の思い込みの上に組み立てられている。

中国の行動準則は主権国家の形式的平等と国家間における富と力の分布の実質的不平等を踏まえたもので、国家間の形式的不平等を前提としたヒエラルキー(序列)ではない。

しかし、この20年余、「中国」の企業、銀行、人、党・政府機関は、人、モノ、カネの流れの拡大する中、「中国」の外に、自分たちに都合の良い環境(milieu)を作っており、それを新しい「中華」秩序の構築と考えているのかもしれない。

Peter J. Katzenstein(Sinicization and the Rise of China, 2012)はこのプロセスをsinicizationと呼んだ。「中国化」と訳されるが、「中華化」の方がよいかもしれない。

このプロセスがどう受け止められるか、どんな政治的社会的効果を生むか、これはかなりの程度、相手の国と国民の決めることである。その意味で、sinicizationを「中華の拡大と拡散」と対で考えるのは面白いと思う。


白石 隆(Takashi Shiraishi)
1950年生まれ。東京大学教養学部卒業。コーネル大学大学院にて博士号取得(Ph.D.)。東京大学教養学部助教授、コーネル大学教授、京都大学東南アジア研究所教授、アジア経済研究所所長、内閣府総合科学技術会議議員、政策研究大学院大学学長などを経て、現職。専門は東南アジア地域研究、インドネシア政治。主な著書にAn Age in Motion : Popular Radicalism in Java, 1912-1926(Cornell Univ Press)、『インドネシア――国家と政治』(リブロポート、サントリー学芸賞)、『海の帝国――アジアをどう考えるか』(中公文庫)、『海洋アジアvs.大陸アジア――日本の国家戦略を考える』(ミネルヴァ書房)など多数。



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 『アステイオン』98号

  特集:中華の拡散、中華の深化──「中国の夢」の歴史的展望
  公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
  CCCメディアハウス[刊]

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