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日本社会

移住願望はシニア層から若者へ──首都圏の人は「地方」に何を求めるのか

2023年03月15日(水)08時13分
多賀谷克彦(元朝日新聞編集委員)

2020年に愛知県瀬戸市で開かれた「せとひとめぐり」はコロナ禍で、地域の観光資源でもある「せともの祭」が中止になり、20~30代の5人が始めた。祭では、200軒の露店を目指して30~40万人が集まるが、「めぐり」はクラウドファンディングで資金を集め、参加者は2日間に中心街の瀬戸物店と郊外の窯元をそれぞれに巡る企画である。

中心的な役割を担い、宿泊業を営む南慎太郎さんは「せともの祭をオンラインでやっても、人と人の交流は生まれない。日常の街の姿を知ってほしいと思い、原料となる粘土の産出、釉薬の配合などから瀬戸物、この街を知ってほしいと思っている」と次の構想も練っている。

長年、地域の文化活動に接している大阪大名誉教授で哲学者の鷲田清一氏はこう言う。「いま、地球のどこでも貧困や紛争など、同じ問題に直面している。グローバルで共通の問題を抱えている時代。そういうときこそ、自分が住んでいる、それぞれの地域で、地域ならではの知恵を絞って課題に取り組むのが大事」

移住した人たちの話を聞きながら、そういう活動が都市から人を受け入れる形の一つのように思える。


多賀谷克彦(Katsuhiko Tagaya)
1962年、神戸市生まれ。4年間の百貨店勤務を経て、88年に朝日新聞社に入社。前橋、新潟支局などを経て、大阪、東京本社で経済記者として、バブル崩壊後の小売業界などを取材した。2007年から大阪本社編集委員などを務めた。

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