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ロシアのウクライナ侵攻は、衛星写真やソーシャルメディアなどによって、戦地の状況が瞬時に発信される初めての大規模な戦争となった。
筆者は2020年夏まで新聞社の記者としてベルギ―のブリュッセルに約4年半駐在し、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)を担当した。ウクライナ侵攻の前史となる、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発したロシアと欧州の情報戦は、当時から主要な取材テーマの一つだった。
報道機関とも一線を画した非国家アクターとして彗星のごとく現れたのが、英国在住のブロガーが立ち上げた独立系の調査グループ「ベリングキャット」だ。
ウクライナで民間機が撃墜された事件では背後のロシア軍部隊の存在をスクープし、英国でロシアの元スパイ親子が毒殺されかけた事件では、ロシアの情報機関に所属する容疑者の身元をいち早く特定した。
内容はもとより、度肝を抜かれたのはその分析手法であった。ネット上で誰でもアクセスできる玉石混淆の情報を精査し、国家や権力者が隠したい「不都合な真実」に迫っていたのである。
筆者は彼らが主催する講習を受けてその手法や理念を学び、『オシント新時代 ルポ・情報戦争』(毎日新聞出版)などで、情報の民主化とベリングキャットがジャーナリズムにもたらした革命的な変化を紹介してきた。
今回のウクライナ侵攻でみられる新しいスタイルの戦争報道は、その延長線上にある。
昨年暮れ、ニューヨーク・タイムズ(NYT)はウクライナのキーウ近郊ブチャで起きたロシア軍による民間人虐殺の真相に追った30分弱のドキュメンタリーと関連記事を公開した。
いち早くデジタルシフトに成功した米国の老舗新聞社による良質な映像リポートは今や珍しくない。驚くべきはその内容と調査手法だった。人びとがソーシャルメディアで公開している情報などを精査して間接証拠を積み上げ、民間人の殺害に関わったとしてロシア軍部隊の現場指揮官や20人を超す兵士たちを特定し、実名を告発したのである。
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